FRBが11月の公開市場委員会(FOMC)で政策金利を0.25%引き上げるのではないかとの感想が強まっている。こうした観測に冷水をかけるような記事をブルーンバーグ(BB)がきょうの未明に配信した。「『ゴースト求人』が増える米雇用市場、求職者やエコノミストを悩ます」。記事によると「米国では現在約900万件の求人があることが政府のデータで示唆されているが、一部の求職者が話す現状はやや異なるようだ」と指摘する。なにが、どう異なるのか。調査会社レベリオ・ラブズによると、「報告されているゴースト求人の件数は多くの業界でコロナ禍前と比べて2倍に増加している。平均的な求人広告が新規採用につながる可能性は約50%しかない」というのだ。米国で公式な求人件数を示すのは労働省雇用動態調査(JOLTS)だ。この調査をFRBはことのほか重視している。だが、この調査の求人数は見かけ上の半分しかないというのだ。

FRBが政策金利をいくら上げても米国の景気は衰えない。その根拠になっているのがJOLTSだ。パウエルFRB議長は前回のFOMC後の記者会見で「適切なら一段の利上げを実施する用意がある。インフレ率が目標に向かって持続的に低下していると確信できるまで、政策金利を制約的な水準に維持する」と述べた。ここでいう「確信」の対象となっているのがJOLTSの求人数だ。その求人数が調査会社によると実態の半分しかないのだ。これが事実ならデータ重視のパウエルFRB議長の実態把握は間違っているということになる。企業は求職者の関心を惹くために、あらゆる部門で求人しているように見せかける過大な求人申請を行なっているというのだ。必要以上の求人を申請すれば労働市場は“逼迫”する。一見堅調な労働市場のデータに騙されてFRBが政策金利を引き上げていたとすれば、FRBはとんでもない間違いを犯したことになる。

BBによると、FRBは前回のFOMC後に発表した声明で「インフレ率は高止まりしている」と指摘。同時に「最近の指標は、経済活動が堅調なペースで拡大していることを示している」とし、「雇用の伸びはここ数カ月間鈍化したが依然として力強く、失業率は低いままだ」との認識を示していた。問題になるのは「雇用の伸びは…依然として力強く、失業率は低いままだ」という部分だ。求人件数が半分しかないことが事実だとすると、労働市場ではすでに求職者数が求人件数を上回っているのかもしれない。データ重視社会でデータそのものに疑義があるとすれば、経済の基礎的諸条件を完全に見誤ることになる。BBが配信した今回の記事はその可能性が大きいことを示唆している。だとすると市場金利の上昇は行き過ぎで、株価は理論値を大幅に上回っていることになる。