日銀の植田和男総裁がきのう、名古屋市で開かれた金融経済懇談会で講演した。ロイターがその内容を詳しくフォローしている。同総裁は日銀が掲げている2%の物価目標の持続的・安定的な実現について、「十分な確度を持って見通せる状況にはなお至っていない」との認識を示した。いつもの通りというか、黒田前総裁以来もう10年近く同じ発言が繰り返されている。YCC(長短金利操作)の枠組みのもとで「粘り強く金融緩和政策を継続する」。そうすることが「経済活動をささえ、賃金が上昇しやすい環境を整えることにつながる」、前総裁が導入した異次元緩和の継続が「政策運営の基本だ」と強調する。この間庶民は企業の相次ぐ値上げにさらされ、物価上昇に追いつかない賃上げで実質的な可処分所得のマイナス状態が続いている。それでも実体経済を無視した日銀の緩和ロジックは、正々堂々この世にまかり通っている。
物価について総裁は2つのポイントを指摘する。「第1の力」と「第2の力」だ。第1の力は輸入物価のこと。第2は「賃金と物価」が好循環する力だ。金融政策にとって大事なのは第2の力。物価目標の実現には第2の力が大事になる。だが第2の力は総裁によると、「先行きどのように強まっていくのか、不確実性が高い」という。不確実性を回避するために岸田総理は所得税の定額減税を実施するなど、事業規模で37兆円にのぼる総合経済対策を閣議決定した。政府・日銀が一体となって政策運営を推進する。これが政府と日銀が取り決めたアコードだ。政府の次に日銀は何をするのか?植田総裁曰く①来年の春闘を見極める②企業が賃上げを念頭に価格設定をする動きが強まるか注視する③賃上げ実現に向けて企業が収益を確保する力(稼ぐ力)をつけるかどうか注視する。日銀は基本的に見守るだけというわけだ。これじゃ、まるで評論家だ。
日銀のために補足すれば、企業の稼ぐ力を強くするための方策が金融緩和政策ということになる。何もしていないわけではない。「長期金利を強力に低位に抑えることで経済を刺激する効果がある」(植田総裁)。なんとなればマイナスで推移している実質金利、「先行きもマイナスで推移すると見られる」。だから長期金利を定位に抑え込む必要がある、というわけだ。先行きの見通しの指標は予想物価上昇率。これは大雑把に言えば市場関係者が予想する上昇率だ。日銀が長期金利を強引に低位に抑え込めば、予想物価上昇率は上がらない。名目が実質を下回れば実質金利はマイナスだ。誤解を恐れずに言ってしまえば、超金融緩和の長期化によって日銀は「自分で自分の首をしめている」ことになる。異次元緩和、YCCというロジックは本当に国民のためになっているのか。素人の疑念は強まるばかりだ。そろそろ関係者が真剣にその是非を検討すべき時期ではなかろうか。
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