【ニューデリー時事】インドが半導体の国産化に力を入れている。国内に本格的な製造拠点はなく出遅れていたが、破格の予算を計上し誘致活動を展開。米中対立を背景にインドをサプライチェーン(供給網)の移転先候補とみる日本の企業や政府も熱い視線を送る。
◇広がる荒野
西部グジャラート州の最大都市アーメダバードからバスで約2時間半。たどり着いた先は荒野が広がっていた。州政府などが半導体関連企業の誘致を進める「ドレラ特別投資地域」。敷地面積は約920平方キロメートル。東京都区部の約1.5倍の広さに相当する。工業団地に加え、空港や居住地の建設も計画している。
今月上旬、日本貿易振興機構(ジェトロ)と国際協力銀行(JBIC)が共催した視察ツアーにインドや日本、シンガポールからも半導体関連事業者ら約60人が参加した。
同地域で半導体工場を新設する企業に対し、中央政府と州政府は合わせて事業費の7割を補助する。半導体など電子産業の誘致や立ち上げを促進する中央政府による総額7600億ルピー(約1兆3600億円)の政策パッケージの一環だ。参加した日系電子部品大手の現地法人幹部は「優遇制度により手軽にスタートできるのはすごく魅力」と語った。
グジャラート州はモディ首相の出身地で、かつて州首相も務めた。ドレラの開発を主導するインド産業回廊開発公社のラジャット・サイニ総裁は「世界の製造業ハブにするとのモディ首相の意向を受け整備された」と、政権による強い後押しをアピール。投資を呼び掛けた。
ジェトロの古川毅彦アーメダバード事務所長は、アラビア海に面する同州は「インド市場に加え中東やアフリカも狙える戦略的な立地だ」と語った。
とはいえ、計画はまだ初期段階。「インド初の半導体製造事業」と期待された地元の資源開発大手ベダンタと台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業傘下企業の合弁会社が昨年、進出を発表したものの、今年7月に合弁を解消した。
同地域には半導体製造に不可欠な工業用水や電力の供給施設が整備されたが、ツアー参加者からはその安定供給や湿地だった地盤の弱さを懸念する声が上がった。進出企業はまだなく、広がる更地に「これが活気ある工業団地になるのか」との声も漏れた。
◇初の政策対話
民間の動きと並行して政府間の協力も進む。今月10日には半導体政策を担う日印の当局者らがオンライン上で集まり、初の政策対話を行った。7月に西村康稔経産相が訪印し、半導体の供給網強靱(きょうじん)化に向けた覚書を締結しており、具体化に向け動きだした。今月29日にはグジャラート州のトップが訪問先の東京で半導体を含む先端産業への投資セミナーを開く予定だ。