週末に元JPモルガンの為替アナリストだった佐々木融氏の「歴史的円安の裏にある『日本の構造的問題』」と題された解説をYouTubeでみた。ほとんど効果のなかった異次元緩和を10年以上続けてきた政府・日銀の金融政策。これによってもたらされた内外金利差の拡大が円安の主因だと思っていたが、これ以外にも日本経済を取り巻く構造的な問題があると同氏は強調していた。1つは2011年の東日本大震災を契機に赤字に転落した貿易収支。2つ目が日本の対外直接投資(ネットベース)の急増。3つ目がサービス収支の赤字拡大である。円安については2月22日付のこの欄で、「経常収支とGDPと円安、悲観的な日本経済の先行き」と題してみずほ銀行エコノミスト・唐鎌大輔氏のリポートを紹介した。これと重なる部分がかなりあるが、要約すれば総合的にみた日本の経済力が“弱体化”している、この一言に尽きる。
佐々木氏はまず円の実質実効レートを提示する。これは貿易量や物価水準をもとに指数化した通貨の購買力を測る指標で、最大時(1990年代中盤)に190ポイントに達していたこの指数が、直近(2023年)では70ポイント強に低下している現実を取り上げる。この水準は1ドル=360円だった時代よりも実感としていまの方が円安だという。その背景に何があるのか。巨額の黒字を出し続けていた貿易収支が赤字に転落したこと。資源のない日本は海外から原材料を輸入し、これに付加価値をつけて海外に輸出してきた。この間、貿易収支は常に大幅な黒字。国富が増えるわけだから必然的に円は強くなる。その貿易収支が東日本大震災を契機に赤字に転落する。これを後追いするように対外直接投資が急増する。巨大になった貿易収支の黒字が輸出を困難にし、起死回生の一手として日本は現地生産をはじめる。工場を海外に移転すれば、巨大な円売り要因が発生する。
もう一つはサービス収支の赤字拡大。旅行収支はコロナ禍を除くと順調に黒字が拡大しているが、「その他業務のサービス収支」の赤字が拡大する一方なのだ。この内訳の主なものはデジタル関係収支。スマホやネット動画などいまや日本人にとって生活必需品となったデジタル関連の収支は、米国などからの輸入やライセンス料などが急増し赤字が拡大する一方。かくして150円を超える円安になったが、これだけ安くなっても円の買い手が見つからない。日本は資産大国でもあるが運用先はもっぱら海外。おまけに少子高齢化にともなう労働力不足で、生産工場の国内誘致を図ろうとしても働き手が見つからない。かくして過去に蓄積した資産の海外流出がはじまった。政府・日銀は大幅な賃上げに日本経済の将来を託そうとしている。それはそれでいいのだが貿易収支、金融政策、少子化対策、消費者の需要喚起策など、あらゆる構造問題を総合的に解決する戦略がどこにもない。かくして円はどんどん安くなる。
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