日銀の植田総裁は19日に終了した金融政策決定会合で、黒田前総裁が10年にわたって続けてきた異次元緩和と決別した。マイナス金利の解除は当初から予想されていたが、長短金利操作(Y C C=イールドカーブ・コントロール)付き量的・質的金融緩和、E T Fの購入まで一気に廃止するとは思わなかった。予想外の決断と言っていいだろう。これによって何が変わるのか。おそらく表面的には何も変わらない。だが、長い目で見ればこの日が日本経済と金融政策にとって、エポックメイキングな決断であったことが明らかになるだろう。そんな予感がする。今回の決断について多くのメディアは「金利のある世界への転換」と見出しをつけている。長くゼロ金利のもとで暮らしてきた日本人にとって、なんとなく違和感を覚えるフレーズかもしれない。だが、これは極ありふれた「普通の世界」に過ぎない。
事実上の利上げを決めた日に日経平均株価は前日比で263円上昇、4万3円と4万円台を回復して終了した。「たったそれだけ」と思うかもしれないが、18日(月)の終値は前週末比1032円急騰して3万9740円をつけている。先週末からメディアの予測は、マイナス金利の解除で足並みをそろえていた。要するに事実上の利上げが既定の事実としてメディアで取り上げられていたのだ。日経新聞は事前にY C CとE T Fの購入廃止までスクープしている。利上げを前提に株式市場は週明けから急騰を演じていたのである。金融当局による政策金利の引き上げは常識的には株価の下落要因。だが、異質の国・日本ではそれが株価急騰の要因になる。世界に類例をみない異質(非伝統的)な金融政策が、投資家の投資判断を狂わしてきたのかもしれない。投資家が金融政策の異常さに気がついた時、異常な政策を修正する“常識”が評価される。日本でもようやくその機能が動きはじめたか。
とはいえ、黒田前総裁の“思い込み”が招いた異常が長引いたあとは、正常化への道のりもまた長くならざるを得ない。日銀が量的緩和と称して買い上げた国債やE T Fの残高は800兆円に迫ろうとしている。政策金利が1%上昇すれば日銀が被る損失は6兆6000億円に達するという試算もある。世界に類例を見ない規模に膨れ上がった日銀のバランスシートの正常化は並大抵のことではない。にもかかわらず異常の修正に取りかかった植田総裁の決断を受けて、株式市場が急騰している。元米財務長官のサマーズ氏は植田氏を評して「日本のバーナンキ」と評価している。物腰は柔らかいが「決断力」があるという意味だ。とはいえ、非伝統的な政策から伝統的な金融政策に先祖返りするだけでは意味がない。リアルエコノミーの急激な変化に対応しながら、伝統的な金融政策の進化を図らないと、いつまで経っても世界と並走できない。本当の手腕が問われるのはこれからだ。
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