取調官の主張の誤りを指摘した内部メモ。「よくこんな(取調官の主張が載った)報告書が作成できるよな。どっちが犯罪者か分からん」などと記されていた=2024年3月19日午後0時8分、遠藤浩二撮影
取調官の主張の誤りを指摘した内部メモ。「よくこんな(取調官の主張が載った)報告書が作成できるよな。どっちが犯罪者か分からん」などと記されていた=2024年3月19日午後0時8分、遠藤浩二撮影

 化学機械メーカー「大川原化工機(おおかわらかこうき)」(横浜市)の社長らの起訴が取り消された冤罪(えんざい)事件で、警視庁公安部が不当な取り調べを行っていたと指摘する、内部メモが存在していることが判明した。大川原側が起こした国家賠償訴訟の1審・東京地裁判決(2023年12月)は取り調べの違法性を認め、東京都に賠償を命じ、大川原側、都側が控訴している。大川原側は近く公用文書毀棄(きき)と虚偽公文書作成の容疑で取り調べ担当の捜査員ら2人を刑事告発する方針で、刑事、民事両手続きで是非が争われる見通しとなった。

 問題の取り調べは、軍事転用可能な装置を不正輸出したとして外為法違反容疑で逮捕された同社元取締役の島田順司さん(70)に、逮捕直後に認否を聞いた「弁解録取」(20年3月)と呼ばれる手続き。Advertisement

国と東京都に損害賠償を求めた訴訟の判決後、「勝訴」と書かれた紙を掲げる大川原化工機の大川原正明社長(中央)=東京都千代田区で2023年12月27日午後2時29分、前田梨里子撮影
国と東京都に損害賠償を求めた訴訟の判決後、「勝訴」と書かれた紙を掲げる大川原化工機の大川原正明社長(中央)=東京都千代田区で2023年12月27日午後2時29分、前田梨里子撮影

 1審判決によると、公安部の取調官(警部補)は、島田さんが容疑を認めたとする供述調書を事前に作成。容疑を否定する島田さんから修正を求められた取調官は、これに応じるそぶりで新しい調書を作ったが、社長との共謀を認める内容だったため、島田さんが抗議。取調官は2通目の調書をシュレッダーで破棄した、とされた。

 故意に調書を破棄すれば公用文書毀棄罪に問われる可能性がある。捜査関係者によると、この取り調べを巡っては、警視庁内部でも問題視する意見が出て、内部調査が実施されたという。

 取調官は内部調査に対し、島田さんから「(2通目の調書を)なかったことにしてください」と言われ、取調室にあった不要書類をまとめる箱に調書を入れたと弁明。回収し忘れてそのまま破棄してしまったと「過失」を主張したという。

 しかし、島田さんの取り調べに立ち会った巡査部長が、取調官の説明に「異議」を唱える内部メモが残されていたという。

 毎日新聞が入手したこの内部メモによると、巡査部長は「島田さんから調書を処分してもらわないと納得できないと言われた」とする取調官の説明に対し、「(島田さんは)処分してうんぬんは言ってない。完全なる虚偽報告」と指摘していた。

 また、巡査部長は、要求通りに調書が訂正されないことについて、島田さんが「警察がまさかこんなことをするなんて」と発言していたと言及。取調官の「過失による破棄」とする主張に疑問を呈した上で、「(大川原側と取調官の)どっちが犯罪者か分からん」とも記していた。

 当時の公安部内では、巡査部長以外にも調書の破棄を問題視する捜査員が複数いて、上司(警視)に対処を求めていたという。ただ、「捜査に問題はなかった」という意見もあったとみられ、内部調査の結果、「過失による破棄」を訴えた取調官の主張が採用され、報告書にまとめられたという。

 都側は、国賠訴訟の1審判決を不服として控訴しており、違法な取り調べがあったかは2審でも争点になる。

 都側は「異議」を唱えたとされる巡査部長の陳述書を東京高裁に証拠提出している。巡査部長は「取調官が何かを隠蔽(いんぺい)しようという目的を持って調書を破棄したことはないと思う」などと主張し、内部メモとは食い違う内容となっている。

 一方、大川原側は、取調官が調書を破棄した点を公用文書毀棄容疑で、破棄は過失とする報告書が作成された点を虚偽公文書作成容疑で近く告発する。取調官に加え、捜査を指揮した警部も告発対象とする。【遠藤浩二】