Rita Nazareth
- 円は一時153円24銭に下落、ドルの強さが相場を動かすとの指摘
- 主要株価指数はそろって下落、年内の利下げ観測後退
10日のニューヨーク外国為替市場で円相場が1ドル=153円台に急落した。3月の米消費者物価指数(CPI)が予想を上回る伸びとなったことに反応した。日米の金利差を意識した円売り・ドル買いに歯止めがかかっていない。
為替 | 直近値 | 前営業日比 | 変化率 |
---|---|---|---|
ブルームバーグ・ドル指数 | 1250.13 | 9.35 | 0.75% |
ドル/円 | ¥153.16 | ¥1.40 | 0.92% |
ユーロ/ドル | $1.0742 | -$0.0115 | -1.06% |
米東部時間 | 16時54分 |
円相場は一時1ドル=153円24銭まで下落。これは1990年以来の安値水準。CPIを受けて年内の米利下げ観測が後退し、米国債利回りとドルが急伸したことが背景にある。
市場での投機的な動きに対して円を下支えするために行動するという日本当局者の口先介入が相次いでいたが、ドルの強さがドル・円相場を動かす中、円の下落を止めるには至っていない。
マネックスの外国為替トレーダー、ヘレン・ギブン氏は「市場は明らかに、通貨当局の口先介入を現時点ではったりだと見なしている」と指摘。「何らかの対応がすぐになければ、一段の下落が予想される」と話した。
BNPパリバ・アセット・マネジメントのポートフォリオマネジャー、ピーター・バサロ氏は「これは明らかにドル主導の動きだ。投機筋が円を攻撃していると日本の当局者が主張することはできない」と指摘。しかし、介入は可能性として残っていると付け加えた。「日本の当局者からは口先介入が相次いでおり、それを踏まえると面目を保つために介入したいという面もあるかもしれない」と語った。
クレディ・アグリコルCIBのG10通貨調査責任者、バレンティン・マリノフ氏は「日本の財務省や日本銀行にとって越えてはならない一線とされる1ドル=152円を簡単に突破したことは、同当局が痛みを感じる水準がもっと高いかもしれないことを示唆している」と述べた。
3月のCPI統計では、変動の大きい食品とエネルギーを除くコア指数が3カ月連続で市場予想を上回る伸びとなった。インフレ圧力が再度強まっていることを示唆しており、今年見込まれている米利下げ開始が後ずれする可能性がある。
米コアCPI、3カ月連続で上振れ-米利下げ後ずれの可能性 (4)
コーペイ・カレンシー・リサーチのチーフ市場ストラテジスト、カール・シャモッタ氏は「これから6月までの間に多くのことが変わり得る」と指摘。「しかし、この日のデータは基調的なインフレのトレンドが市場や米金融当局者がこれまで想定していたよりもはるかに強いままであることを示唆している」と述べた。
米国債
米国債相場は急落。利回りは急伸し、年初来の高水準に達した。CPIを受けて、年内の利下げはわずか2回にとどまるとみられている。
国債 | 直近値 | 前営業日比(BP) | 変化率 |
---|---|---|---|
米30年債利回り | 4.62% | 12.7 | 2.82% |
米10年債利回り | 4.54% | 18.2 | 4.17% |
米2年債利回り | 4.97% | 22.8 | 4.81% |
米東部時間 | 16時54分 |
利回りはあらゆる年限で少なくとも前日比13ベーシスポイント(bp、1bp=0.01%)上昇。金融政策に最も敏感な2年債利回りは一時24bp上昇して4.98%を付けた。10年債利回りは昨年11月以来の4.5%超えとなった。
米10年債入札がさえない結果となったことで、米国債は午後に入って下げを拡大。入札では、最高落札利回りが入札前取引(WI)水準を3bp余り上回った。
金利スワップ市場の動向によると、フェデラルファンド(FF)金利の年末水準は現行実効レートの5.33%を約40bp下回るに過ぎないことが示唆されている。
わずか数週間前には、2024年の利下げは6月を皮切りに3回実施されると織り込まれていた。
ウェリントン・マネジメントの債券ポートフォリオマネジャー、カンペ・グッドマン氏は「インフレが3%前後で横ばい状態になる状況を示唆しており、米金融当局は据え置き継続に傾くだろう」と指摘。「同当局が利下げを望んでいるのは分かる。彼らは住居費のインフレが和らぐと見込んでいるが、それはモデルに基づく見方だ」と話した。
チャールズ・シュワブのチーフ債券ストラテジスト、キャシー・ジョーンズ氏は「要するに、今回のデータは年内の米利下げがせいぜい1回か2回になることを意味している。現時点において当局は慎重にならざるを得ない」と指摘。「総じて、利回りのトレンドはまだ上方向で、われわれはそのトレンドと闘うことは望んでいない。しかし、10年債利回りが5%に上昇するとはみていない」と述べた。
米国株
米株式相場は下落。CPIを受けて、金融当局が利下げを急がないとの見方が広がった。
株式 | 終値 | 前営業日比 | 変化率 |
---|---|---|---|
S&P500種株価指数 | 5160.64 | -49.27 | -0.95% |
ダウ工業株30種平均 | 38461.51 | -422.16 | -1.09% |
ナスダック総合指数 | 16170.36 | -136.28 | -0.84% |
米金融当局が2%インフレ目標への「最後の1マイル」を進む中、物価圧力の根強さが改めて意識され、高金利が長期化するとの見方が広がった。
米連邦公開市場委員会(FOMC)が3月19-20日に開いた会合では、政策決定当局者の「ほぼ全員」が年内のいずれかの時点で借り入れコストを引き下げ始めるのが適切になると判断していたことが議事要旨で明らかになった。しかしそれ以降、インフレは市場の予想を一変させている。
FOMCはランオフのペース半減支持、年内利下げ適切-議事要旨 (1)
チャールズ・シュワブのリチャード・フリン氏は、「米金融当局は金利を設定する際に、引き上げはエスカレーターに乗り、引き下げはエレベーターを使うとよく言われるが、今サイクルの引き下げでは階段を選ぶようだ」と述べた。
インディペンデント・アドバイザー・アライアンス(IAA)のクリス・ザカレリ最高投資責任者(CIO)は「米金融当局にはまだ利下げバイアスがあり、7月もしくは9月に25bpの利下げを行う可能性が高いとわれわれはみている。しかし、根強いインフレが続くようであれば、それが今年唯一の利下げとなるかもしれない」と語った。
ローレンス・サマーズ元米財務長官はブルームバーグテレビジョンで「次の政策金利の動きが下向きではなく、上向きになる可能性を真剣に考えるべきだ」と指摘。その確率は15-25%のレンジとの見方を示した。
FRB次の動き、利上げとなる可能性を真剣に考えるべき-サマーズ氏
企業ニュースでは、バイデン米大統領が日本製鉄によるUSスチール買収計画に関して、買収に反対する米労働者への支持をあらためて表明した。ただ、USスチールに米資本を維持するべきだという、先月示した考えを繰り返すことはなかった。
原油
ニューヨーク原油先物は上昇。イランかその代理勢力が近くイスラエルの軍事・政府関連拠点に大規模なミサイル・ドローン攻撃を仕掛けると米国と同盟国はみているとのブルームバーグ報道を受けて、当初の下げから切り返した。
イランと代理勢力のイスラエル攻撃、近日中にもと米判断-関係者 (1)
これに先立ち、イランはシリアにある同国大使館が攻撃されたことへの対応を準備しており、米国に「手を引く」よう求めたことを明らかにしていた。市場関係者はこの問題を注視しており、事態がエスカレートすれば新たな押し上げ要因になるとみている。
イラン、米国に「手を引く」よう求める-イスラエルへの対応を準備
原油相場は当初、CPI上振れを受けたドル高と米原油在庫の増加による向かい風を受けていた。
市場関係者は市場の見通しを見極める上で、今週公表される石油輸出国機構(OPEC)と国際エネルギー機関(IEA)の月報にも注目している。
ニューヨーク商業取引所(NYMEX)のウェスト・テキサス・インターミディエート(WTI)先物5月限は前日比98セント(1.1%)高の1バレル=86.21ドルで終了。ロンドンICEの北海ブレント6月限は1.2%高の90.48ドル。
金
ニューヨーク金相場は下落。米CPIが3カ月連続で上振れしたことで、年内に見込まれている利下げ開始が遠のく可能性が意識された。
CPIデータ発表後に米国債利回りとドルが急伸したことも重しとなり、スポット金価格は一時、1.4%安の1オンス=2319.50まで売られた。
サクソバンクの商品戦略責任者オレ・ハンセン氏は「米利下げの回数からインフレの根強さに焦点をシフトさせた」一部の投資家が買いを入れ、金相場の下値を支えたと述べた。
ただ「金相場が足元、急ピッチで上昇してきた」ことを踏まえると、短期的には調整が起こり得ると指摘。2230ドルを割り込むと、買い持ち高の解消が進む公算が大きいと話した。
金スポット相場はニューヨーク時間午後2時15分現在、0.5%安の1オンス=2340.62ドル。ニューヨーク商品取引所(COMEX)の金先物6月限は14ドル(0.6%)安の2348.40ドルで終えた。
原題:S&P 500 Hit by Fed-Pivot Rethink and War Jitters: Markets Wrap(抜粋)
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