円安が止まらない。現時点(11時17分)のレートは154円ちょっとの水準。政府日銀は「行き過ぎた動きについては適切に対応する」(鈴木財務大臣)と口先介入を繰り返すだけで、円安防止に向けた具体策は一向に示さない。おそらく打つ手がないのだろう。介入すると予想されていた152円台もあっさり通過、新たな介入メドとされる155円台に限りなく近づいている。政府・日銀の体たらくに業を煮やしたのか、財界が悲鳴をあげはじめた。ブルームバーグ(B B)は「財界首脳から相次ぐ円安是正要望、『行き過ぎ』と新浪氏-155円目前」と、政府・日銀批判とも取れる発言が飛び出した。当然だろう。一部大手輸出企業と政府を除けば輸入企業も消費者も毎日“悲鳴”をあげている。そんな声を無視する政府・日銀。与党・自民党は裏金づくりの責任回避に勤しむ毎日。庶民などお構いなしだ。

B Bの記事から財界の声を拾ってみる。経済同友会の代表幹事を務める新浪剛史サントリーホールディングス社長は16日、現在の円安は行き過ぎている可能性があり「是正が必要なレベルになってきている」と強調した。日本商工会議所の小林健会頭は定例会見で、「他国との協調介入も検討してほしい。中小企業は原材料高騰で苦しい」と語気を強めた。財界首脳の発言としては珍しく直截的だ。中小企業の痛手が大きいことの裏返しだろう。ファーストリテイリングの柳井正会長兼社長は11日の決算会見で、「(円安は)当社に対してだけでなく、日本にとっていいわけがない」と主張した。この欄でも過去何回か円安無策の政府・日銀を批判してきた。東京商工リサーチの調査によると、円安関連の倒産は2022年7月以降、20カ月連続で発生しているとある。

円安の原因は何か?短期的には日米の金利差に代表されるように先進諸国と日本の金利差が拡大していることによる。デフレ脱却を目指したゼロ金利政策の長期化によって、カネの流れが変わってしまったのだ。外為市場における円の需給は圧倒的に円売りに傾いている。国際収支が大幅な黒字であるにも関わらず円は売られているのだ。ドル建てで蓄積された黒字は、そのままドルで運用されており円転されない。貿易赤字はドル売りに直結し、貿易外収支の黒字は統計上の黒字にとどまり円として還流しないのだ。かくして外為市場のキャッシュフローは圧倒的な円売り超過。これが短期的な円安要因だ。もっと深刻なのが長期的な成長戦略が見当らないことだ。半導体向け投資拡大も単発で、デジタル産業育成に向けた総合戦略がなく、火花が散るような連鎖反応が起こらない。日本ではモノづくりの空洞化に次いでマネーの空洞化がはじまっている。かくして日本売りの円安がとめどなく続く。

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