厚生労働省が昨日発表した3月の毎月勤労統計調査(速報、従業員5人以上の事業所が対象)によると、勤労者1人当たりの賃金は物価変動を考慮した実質で前年同月比2.5%減した。減少は24カ月連続で過去最長。日経新聞によると「給与総額は伸びているものの、物価高に追いつかない状態が続いている」。昨年の春闘ではベアが3.6%増えている。にもかかわらず実質賃金は減少した。要するに賃金の伸び率を上回る物価の上昇が続いているということだ。ベアと定期昇給を合わせて過去最高の5.17%(連合第5回集計)の賃上げとなった2024年度に実質賃金はプラスに転換するのか、5月に発表される4月分の調査結果が注目される。6月には定額減税も実施される。実質賃金は当然プラスになるはずだ。だが個人的にはそんなに簡単ではないと思っている。

調査内容を簡単におさらいしてみる。日経新聞によると、「名目賃金を示す1人あたりの現金給与総額は増加が続き、3月は前年同月比0.6%増の30万1193円だった。伸び幅は2月から0.8ポイント低下した。基本給にあたる所定内給与は1.7%増、残業代など所定外給与は1.5%減だった。現金給与総額を就業形態別でみると、正社員など一般労働者は0.8%増、パートタイム労働者は2.5%増だった。消費者物価指数は3.1%上昇だった」。所定内給与は伸びているが、残業を中心に所定外給与は減っている。単純に差し引きすると0.2%のプラス。所得の伸びはたったの0.2%に過ぎない。これに対して物価は3.1%増加している。これでは実質賃金が大幅なマイナスになるのも致し方ない。日本人は働きすぎだとよくいわれる。これを是正するための働き方改革は当然だろう。だが、働き方改革を実施すると残業が減る。勤労者の多くは残業によって賃金を維持している。残業が減れば当然ながら手取りも減る。反対に残業が減っても物価は下がらない。

要するに日本の勤労者は構造的な矛盾の中で働いているのだ。日本生命の主席エコノミスト・永利利弘氏は「昨年の春闘賃上げ率は最終集計で3.6%でしたが、昨年の名目賃金は+1.2%しか上がってません」と指摘する。その要因は「春闘の賃上げ率がマクロの賃金に及ぼす影響が大きくないということでしょう」と分析する。早い話勤労者の賃金は残業に左右されているということだ。これは賃金にまつわる構造問題だ。単純かもしれないが、勤労者は肉体を駆使して長時間働かないと賃金が増えない構造になっている。働き方改革によって残業を減らすと賃金も減ってしまう。政府は法律によって残業を規制するが、賃金は経営者の判断に委ねている。結果的に日本の働き方改革は賃金の減少を招いているのだ。今春闘で5%を超える賃上げが実現したが、賃金をめぐる構造問題は改善されていない。6月に発表される4月の毎月勤労統計調査の結果がそれを実証するのではないか・・・

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