植田日銀総裁の「円安無視」発言から急落に転じた円相場は、G W初旬に相次いだ財務省による円買い介入によって多少持ち直した。現在は155円台から156円台をはさんだ動きが続いている。円安の背景には円を取り巻く構造的な問題があるだけに、一時的な介入によって円安にストップがかかることはあり得ない。そんな中で個人的に注目しているみずほ銀行のマーケット・アナリスト、唐鎌大輔氏は12日付けでロイターに投稿、「N I S A(少額投資非課税制度)による国内投資枠」の新設と「リパトリ減税」の実施を提案した。あくまでも円安の構造改革が進むまでの時間稼ぎに過ぎないとしているものの、ここまで来るとなんでもやった方がいいと言う。ちなみにリパトリ減税とは海外にドルで滞留する資金の国内還流にかかる税金のこと。すでに95%は無税だが残りの5%も無税にと言う提案だ。

柱は「国内投資枠」の設定。N I S Aは今年から無税枠が「つみたて投資枠」(120万円)、「成長投資枠」(240万円)に拡大された。これが新N I S Aである。老後の社会保障に不安を感じている若者世代にヒットして、年明け早々から新N I S Aの口座開設が急増している。だが運用の中身を見ると海外株式の購入が過半を占めており、円安加速の一つの要因になっている。いわゆる「家計の円売り」が加速しているのだ。唐鎌氏は「財務省データによると、投資信託経由の対外証券投資は今年1─3月期だけで約3.5兆円に達しており、これは例年で言えば1年分に匹敵する」と指摘する。個人的には日本の投資家はすでに、資金運用という面では日本政府や日銀を「当てにしていない」のだ。「見捨てている」と言った方がいいかもしれない。当然のことだと思う。アベノミクス以来政府・日銀はゼロ金利に異次元緩和と、資産運用を無視したデフレ対策を推進しているのだ。

岸田内閣の愚かしいところは、無税の投資枠を拡大すれば国内での株式や債券投資が拡大すると見ていることだ。市場経済に立脚した欧米諸国からみれば日本は、規制でがんじがらめにされた上、ゼロ金利でインカム収入のない異常な国に見えるはずだ。若者世代は市場経済の潮流に敏感に反応している。岸田内閣の用意した無税枠の拡大に乗って海外投資を増やしているのだ。個々の投資額は微々たるものに過ぎないが、それが累積すれば円安を加速する規模になる。「家計の円売り」にさらされた財務省は、慌てふためいて4月29日と5月2日の両日に海外市場で円買い介入を実施した。その規模は8兆円といわれる。介入レートを160円とすれば2週間で5円の円高が実現した。それでも円安の流れはとまらない。輸入インフレの重圧が日本の消費者に襲いかかる。若者世代を中心に家計が円売りに走るのも当然の帰結だろう。取り残される高齢者よ、目覚めよ。

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