▽マクロン仏大統領に再び脚光、ウクライナ危機で指導力-支持率も回復
Samy Adghirni
- 昨夏の選挙大敗で一時は国内集中-欧州安保で信頼回復の機会つかむ
- 同盟国取りまとめ、トランプ氏との調整に奔走-国内では不安定さも
米国のトランプ大統領が地政学的な策略で同盟国に揺さぶりをかける中、欧州のリーダーの一人が再び脚光を浴びている。フランスのマクロン大統領だ。
マクロン氏は、昨夏に強行した国民議会(下院)選挙で議会の過半数を失って以来、国内の危機対応に追われてきた。だが、大国外交が復活したことで、マクロン氏はウクライナを支援する同盟国を取りまとめ、ギアを入れ替えるチャンスに恵まれた。欧州連合(EU)はちょうど、20-21日に首脳会議を開いている。
ただし、この取り組みで、マクロン氏はトランプ氏との衝突が避けられなくなりそうだ。
トランプ氏は、ウクライナでの停戦を、ロシアとの新たなビジネスや政治的な協力関係を築くための手段として位置づけている。一方、18日にトランプ氏と電話会談したロシアのプーチン大統領は、ウクライナへの武器供給の完全停止を要求した。この要求が受け入れられれば、マクロン氏はウクライナ支援を活気づけるための取り組みを、事実上放棄せざるを得なくなる。
EUの別の主要国高官は18日、欧州諸国がプーチン氏の条件に従うことはあり得ないと主張した。

信頼回復
フランス政府のソフィー・プリマス報道官は19日、マクロン氏がトランプ氏やウクライナのゼレンスキー大統領と日々協議していると明かした。
ゼレンスキー氏は19日記者団に対し、来週フランスを訪問し、ウクライナへの外国の平和維持部隊派遣の可能性について話し合う予定だと述べた。現時点では、「全体像を練り上げる必要がある」としている。
トランプ氏が停戦をせかす中、マクロン氏はここ数週間、30カ国以上の軍の最高司令官や欧州の主要軍事大国の国防相、欧州首脳による臨時会合を主催してきた。 また、英国のスターマー首相とともに、ウクライナに対する停戦合意後の軍事支援を準備する37カ国のとりまとめもしている。

パリ政治学院で教える政治学者メロディ・モックグルエ氏は「世界情勢によってマクロン氏は信頼を取り戻した」と指摘する。
マクロン、スターマー両氏の取り組みは、英連邦やアジアからの参加も含めた欧州の軍隊が、資金、軍隊、航空機、艦船のいずれかを拠出し、さらなるロシアの攻撃からウクライナを守る手助けをするという構想だ。ウクライナを支援するすべての国が賛同しているわけではないが、最近の会合では、この構想は支持を集めているようだ。
フランス国民もマクロン氏が再び国際的な注目を浴びることを歓迎しており、支持率は過去最低から上昇しつつある。仏紙ウェスト・フランス向けにIFOPが実施した世論調査では、マクロン氏の人気は3月に前月より7ポイント高い31%に上昇し、昨年の下院選前の水準に近づいた。
長年の関係
並行して、欧州諸国は将来的なロシアの侵略に対し、米国に依存せずに説得力のある抑止力を示そうと、軍事能力の劇的な変革を試みている。欧州各国は、不当で不安定な平和協定がウクライナに押し付けられ、プーチン氏に次の攻撃に向けた再軍備の機会を与えることになる可能性を懸念している。
ドイツ連邦議会(下院)は18日、数十年にわたる財政緊縮路線から転換し、防衛とインフラ整備のために借り入れで数千億ユーロの資金を確保する財政改革パッケージを可決した。マクロン氏は、フランスの核抑止力を欧州同盟国の防衛に活用することについて、各国と協議を始めた。また、20日からのEU首脳会議に先立ち、退任するドイツのショルツ首相、次期首相候補のメルツ・キリスト教民主同盟(CDU)党首と会談し、両国の姿勢の協調を図った。
欧州首脳らがトランプ政権の考えを把握し、対応を練ろうと苦慮する中で、トランプ氏の1期目から交流があるという長年の関係がマクロン氏に重要な役割を与えている。フランス政府当局者によると、マクロン氏は前回のEU首脳会議後、トランプ氏に30分以上かけて内容を報告したという。
トランプ氏は個人的なつながりを重視するとマクロン氏は考えていると、同氏の意向に詳しい関係者は話した。マクロン氏は側近に、トランプ氏は聞き上手ではないものの、適切な議論を見つければ、彼の注意を引けると語ったという。

リスク
ただ、トランプ政権との関係を強化しようとするマクロン氏の試みは、深刻な逆風にも直面している。今月にはフランスの中道左派の野党議員が、米国とはもはや価値観を共有していないとして、自由の女神像の返還を求めるべきだと発言した。これに対し、ホワイトハウスのリービット報道官は第2次世界大戦時のフランスの解放に触れ、フランス人がドイツ語を話さずに済んでいるのは米国のおかげで、感謝すべきだと応じた。
ある欧州当局者は、どのような状況であれ、ウクライナに欧州軍を展開することは深刻なリスクを伴うと述べた。だが、もしその動きがロシアとの和解を迫る米国の圧力にウクライナが抵抗する一助となるなら、リスクはさらに高まる。
ウクライナへの関与を強めるための費用を、フランスがどう捻出するかも不明だ。マクロン氏は増税しない考えを示し、ロンバール経済・財務相は、フランスに借り入れを増やす余裕はないと主張している。ロンバール氏は20日、防衛投資を強化する方法について銀行や保険会社と話し合う予定だ。
マクロン氏は2017年に政権を握って以来、欧州の軍事能力の抜本的な拡大を訴え続けてきたものの、同盟国首脳らを結集して行動に移すことはできなかった。急速に変化する情勢への対応が急がれる中、マクロン氏の主張は、今や欧州で主流となっている。
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