米中の貿易交渉がこう着状態に陥っている中で、米国は中国の人権問題に対する圧力を強めている。NHKによると米国務省のオータガス報道官は30日の会見で、「(天安門事件は)平和的な抗議に対する明らかな虐殺だったということを忘れてはならない」と非難した。NHKは「報道官は、『虐殺』という強い表現を繰り返し使い、貿易や安全保障問題で激しく対立する中国に人権問題でも圧力をかけるねらいがあるものとみられます」と解説している。通商交渉が思ったように進展しないことに対するこれは腹いせか。中国の人権問題は非難しても北朝鮮は無視する米国の場当たり的対応。だが、天安門事件に限らずウイグル自治区など人権問題が中国に黒い影を落としていることは事実だ。

きのう時事通信が天安門事件の学生リーダだった王丹氏(50)の単独インタビューを配信している。天安門事件から6月で30年を迎える。当時を振り返って王氏は「一貫して中国政府が(市民に)発砲しないと認識していた」と述べ、軍の発砲には「とても驚がくした」と証言。犠牲者の数については中国政府発表の319人より多く、「少なくとも2000人」との見方を示した。また「弾圧がなければ、中国はとっくに民主化していただろう」とも語った。この中で王氏は「虐殺」という言葉を使っていないが、犠牲者の数については当局の発表と王氏の発言に大きな開きがある。中国は事件以降一貫して政府の正当性を主張している。だが、真相が明らかになれば「虐殺」の信憑性はより明確になるだろう。

米中の貿易交渉の停滞は、世界経済の行方に大きな影を落としている。中国の対米黒字の中には日本をはじめ韓国、台湾、ベトナムなど東南アジア諸国が中国に輸出した分も含まれている。仮に米中交渉が決裂すれば、世界中のサプライチェーンに悪影響を及ぼすだろう。中国が人権問題に蓋をして「一帯一路」や「中国製造2025」で覇権を目指したとしても、おそらく世界中を敵に回すだけだ。王氏は中国共産党に「希望はない」が「2つの望みがある」という。「一つは、習近平の強権的手法は、共産党内部の権力闘争や分裂をもたらすこと。もう一つは、中国の深刻な社会矛盾と経済減速が進むと、政府と民衆は衝突する。それを鎮圧する共産党への民衆の抵抗は高まる」ことだという。米国務省の「虐殺」発言、王氏が描く中国の近未来図を見据えているのかもしれない。