格といってもWTAが発表しているランキングのことではない。プロテニスのプレーヤーとして、一人のアスリートとして大坂なおみは存在感を高めた。一人の人間として格が上がった、そう思ったのだ。先週行われたウエスタン・アンド・サザン・オープンのシングルス戦。今日から始まる全米女子オープンの前哨戦として注目された試合だ。世界ランク10位だった大坂なおみはこの試合、順調に勝ち上がり準決勝にコマを進めた。その試合を前に大阪は、全米で相次いで起こっている警察官による暴力事件と人種差別に抗議するためを欠場する意向を表明した。絶好調の大坂なおみが欠場を宣言した。多くのファンやプロテニス関係者は驚いたことだろう。だが、「私はプレーヤーの前に一人の黒人だ」、彼女の説明に世界中のファンは納得した。
大坂なおみの発言を受けてプロテニス協会が動いた。これがまた素晴らしい対応だった。ツアーを管轄する関係団体がすぐさま行動を起こす。日刊スポーツ(29日付)によると「男子のプロテニス協会(ATP)、女子テニス協会(WTA)、主催の米国テニス協会(USTA)が、翌日27日の全試合中止を決めた」のだ。大坂の抗議を真正面から受け止め、翌日に予定されていたすべての試合をキャンセル。大阪との話し合いに臨んだのである。この話し合いを受けて大阪は翌日の試合に出場する決断をする。協会の対応を評価して前言を撤回したのだ。欠場発言に固執することなく、柔軟に出場に踏み切ったこの決断こそが、大阪のアスリートとしての格をあげた要因だと個人的に高く評価している。協会関係者の対応はまさにアスリートファースト。人種差別に反対する声は米国の内外で幅広く広がっている感じがした。
プロテニスは元々白人のスポーツである。一昨年大坂が決勝戦で戦った相手はセレーナ・ウイリアムズ。彼女も黒人だ。プロテニスの世界ではすでに人種の壁は無くなっている。大阪の件に関連して3団体は「テニス界は一致団結して人種差別に抗議する」との声明を発表している。大坂なおみは準決勝戦に「Black Lives Matter(黒人の命も大切だ)」と書かれたTシャツを着て入場した。このTシャツが大坂の気持ちを雄弁に物語っていた。ロイターによると、男女平等を訴え続けてきたテニス界のパイオニア、ビリー・ジーン・キング氏(76)は、モハメド・アリ以来数々のアスリートがスポーツを通じて人種差別撲滅に向けて行動を起こしてきた。「そのバトンをなおみが両手で受け取った。これは慈悲深さ、強さとリーダーシップの表れだ」と述べたという。残念ながら決勝戦は故障で棄権したが、今日から全米女子オープンが始まる。今度は強い大坂を見たい。
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