トランプ米大統領が4年前、大接戦の末に制した南部フロリダ州で「地殻変動」が進行している。キューバ系移民の右傾化が強まる一方、民主党支持者が多いプエルトリコからの移住者が急増。定年後に移住してきた高齢者には「トランプ離れ」が目立ち始めた。

 大統領選の主要激戦州のうち、フロリダ州は最多の選挙人(29人)を抱える。1924年以来、同州で負けて大統領になった共和党候補は皆無。政治評論家らも「フロリダを落とした時点でトランプ氏再選の目は消える」と口をそろえており、トランプ氏は崖っぷちの戦いを強いられている。

 ◇熱烈な支持者

 「マスコミの報道はうそばかりだ」。青く澄んだ海、人影がまばらな白い砂浜。新型コロナウイルスが暗い影を落とすフロリダ州マイアミの風景をぼんやり眺めていると、タクシー運転手の声で現実に引き戻された。

 運転手の男性(54)はキューバ系移民。大統領選の取材に来たと明かすと、トランプ氏が乗り移ったかのようにメディアや民主党批判を始めた。

 フロリダ州の人口の約25%を占めるヒスパニックの中でも、最大勢力のキューバ系は共和党支持者が多い。2016年の前回選挙では過半数がトランプ氏に投票し、同州での勝利に貢献した。

 新型コロナで観光業は大打撃を受け、タクシー利用客も激減した。それでも男性は「新型コロナは中国のせいだ」とトランプ氏を擁護。バイデン氏を「社会主義者」と呼び、キューバ共産党政権に強い姿勢で臨むトランプ氏を称賛する。

 ◇後手のバイデン陣営

 1月以降、トランプ氏によるフロリダ州訪問は15回に上る。バイデン氏を「社会主義者」「急進左派」と攻撃し、共産党政権から逃れてきたキューバやベネズエラ系移民の恐怖をあおってきた。

 なりふり構わぬ選挙戦術は奏功しつつある。共和党マイアミ支部の責任者マリエラ・ジュエットさん(71)は「支持者の熱気はかつてなく高い」と指摘。実際、キューバ系の共和党支持率はこの4年で10ポイント以上伸びた。

 新型コロナで遊説を制限してきたバイデン氏は後手に回った。フロリダ初訪問は9月中旬になってから。フロリダ国際大のエドゥアルド・ガマラ教授(政治学)は「党内左派の支持を失いたくないバイデン氏は、トランプ氏の口撃に強く反論できなかった」と指摘。今後、どこまで民主党寄りのプエルトリコ系の票を固められるかがカギになると話す。

 ◇悪夢の再来も

 温暖な気候を求め、定年後に全米各地から移住してきた白人富裕層の間では「トランプ離れ」が進む。こうした高齢者が集まるリー郡は保守色が強く、前回大統領選でトランプ氏が大差で勝利したことで知られる。

 だが、新型コロナが潮目を変えた。フロリダ州は全米50州で3番目に多い感染者数を記録。10月中旬、リー郡の住宅街は平日の昼食時にもかかわらず、息を潜めたように静まりかえっていた。

 首都ワシントンから移住した元公務員カリン・モンゴメリーさん(72)は「政権の新型コロナ対応の無策ぶりが、トランプ氏の言動にうんざりしていた高齢者の離反に拍車を掛けた」と分析。民主党の調査でも、バイデン氏が同郡での支持率でトランプ氏を逆転した。

 政治専門サイト「リアル・クリア・ポリティクス」の世論調査平均値では、フロリダ州全体でもバイデン氏が1.5ポイントリード。ガマラ教授は「接戦は間違いなく、再集計で混乱した00年大統領選の悪夢の再来になる可能性もある」と予測している。