ロシアによるウクライナに対する軍事侵攻が続いています。
ウクライナの各地でロシア軍とウクライナ軍が戦闘を続けていて、大勢の市民が国外へ避難しています。戦闘の状況や関係各国の外交などウクライナ情勢をめぐる6月1日(日本時間)の動きを随時更新でお伝えします。
(日本とウクライナ、ロシアのモスクワとは6時間の時差があります)
ドイツ首相 対空ミサイルシステムなどウクライナに供与表明
ドイツのショルツ首相は1日、連邦議会で演説し「ドイツが保有する最も近代的な対空システムをウクライナに供与することを決めた。ロシアによる空からの攻撃に対し、都市を守ることが可能になる」と述べ、対空ミサイルシステムや砲撃を感知するレーダーをウクライナに供与すると表明しました。そのうえでウクライナ東部での戦況を念頭にアメリカとの間で軍事支援についての協議を行っているとして、さらなる支援を行う可能性を示唆しました。
このほかショルツ首相は、すでに供与を表明している自走式のりゅう弾砲を扱うためのウクライナ兵に対する訓練が数日以内に終わり、今後数週間で12両がウクライナに送られると説明しました。
ロシア大統領府報道官「アメリカは熱心に火に油を注いでいる」
アメリカのバイデン政権が、ウクライナに対してより精密な攻撃が可能だとされる「高機動ロケット砲システム」の供与など追加の軍事支援を発表したことについて、ロシア大統領府のペスコフ報道官は1日「アメリカは意図的に、そして熱心に火に油を注いでいる。アメリカはロシアを最後までウクライナと戦わせたいのだ。このような兵器を供与すればウクライナは停戦交渉を再開しようとはしないだろう」と述べ、強く反発しました。
またEU=ヨーロッパ連合が30日、ロシアへの追加制裁としてロシア産の石油の輸入禁止で合意したことについては「これらの制裁措置はヨーロッパとロシアのそれぞれに対して、そして世界全体のエネルギー市場にも悪い影響を与えるだろう」とけん制しました。そのうえでペスコフ報道官は、ウクライナ南部の黒海に面した港がロシア軍に封鎖され、穀物などの輸出が滞り食糧危機への懸念が高まっていることについて「世界の主要な供給者であるロシアに対して非合法的な制限を行っているため、深刻な食糧危機に陥っているのだ」と述べ、欧米側がロシアに対する制裁を解除する必要があると主張しました。
英国防省 “ロシア軍 最後の拠点へ攻撃を集中”
イギリス国防省は1日、ウクライナでの最新の戦況分析を公表し「ロシア軍は5月30日から31日にかけてセベロドネツクの中心部に接近し、戦闘が激化した」として、ロシア軍が東部ルハンシク州のウクライナ側の最後の拠点とされるセベロドネツクへ攻撃を集中させていると指摘しました。そして、セベロドネツクの状況について「現在、街の半分以上がロシア南部チェチェンの戦闘員を含むロシア軍によって占拠されているとみられる」と分析しました。
ルハンシク州知事「ロシアがセベロドネツクの約7割を統制下に」
ウクライナ東部ルハンシク州のガイダイ知事は1日、SNSへの投稿で、セベロドネツクについて「ロシアはセベロドネツクのおよそ7割を統制下に置いている」と述べたうえで「ウクライナ軍は一部が撤退したが、一部はまだ街の中で戦い続けている」と明らかにしました。また、ルハンシク州でロシアが掌握していない地域では引き続きロシア側の砲撃にさらされているとしています。そのうえで「私たちは欧米諸国の兵器を待って反撃の準備をしている」と述べ、徹底抗戦を続ける考えを強調しました。
バイデン政権 ウクライナに7億ドルの追加軍事支援発表
アメリカのバイデン政権はウクライナに対して7億ドル、日本円でおよそ900億円の追加の軍事支援を行うと発表しました。この中には精密な攻撃が可能だとされる「高機動ロケット砲システム」と呼ばれる兵器が含まれていて、アメリカは戦闘が長期化する中で軍事支援をさらに強化した形です。
⇒「バイデン政権 “ウクライナに7億ドルの追加の軍事支援”」詳細記事はこちら
ゼレンスキー大統領「ロシア軍の攻撃は狂気の沙汰」
ウクライナのゼレンスキー大統領は31日、新たに動画を公開し「ドンバス地域の状況は非常に厳しい。セベロドネツクなどが対立の中心になっている。セベロドネツクには大規模な化学工場があり、ロシア軍の攻撃は狂気の沙汰だ」と述べ、ロシア軍の攻撃を非難しました。そのうえで「ハルキウでの前進とともに、ヘルソンでは一定の成功を収めている。また、ウクライナ軍はザポリージャで占領者の圧力をはねのけている。領土を完全に奪還するのがわれわれの目標だ」と述べ、徹底抗戦する考えを改めて強調しました。
穀物輸送 国連高官がモスクワ訪問しロシア側と協議
国連の報道官は31日、グテーレス事務総長の指示で国連の高官がモスクワを訪れ、穀物などの輸送についてロシア側と協議したことを明らかにしました。
モスクワを訪れたのはUNCTAD=国連貿易開発会議のグリンスパン事務局長で、30日にロシアのベロウソフ第1副首相と会談し、主にロシアからの穀物や肥料の輸出をめぐり協議したということです。
報道官は「増大する世界的な食料不安に対処するという重要な目的がある」としたうえで「会談は建設的だった」と述べました。
ロシアとウクライナから穀物や肥料の輸出が滞っていることについて、グテーレス事務総長は、輸出の再開に向け両国とトルコ、アメリカ、EU=ヨーロッパ連合などと協議を続けていることを明らかにしていて、グリンスパン事務局長は現在アメリカ政府と協議するためワシントンを訪れているということです。
ウクライナ検事総長 “戦争犯罪 ロシア側容疑者600人以上特定”
ウクライナのベネディクトワ検事総長は31日、ウクライナで戦争犯罪を行った疑いのあるロシア側の容疑者600人以上を特定し、およそ80人について訴追の手続きを始めたことを明らかにしました。
訪問中のオランダ・ハーグのICC=国際刑事裁判所で記者会見したベネディクトワ検事総長は「特定した戦争犯罪の容疑者は、ロシア軍の高官や政治家などだ」としたうえで「ウクライナの法廷だけでなく、ICCで受け入れられる証拠を集めることを優先していく」と述べました。
また同席したICCのカーン主任検察官は近く、首都キーウに事務所を開設し、ウクライナ側の捜査を支援していくことを明らかにしました。
米 国務省報道官「南部ヘルソン州 ロシアの支配 制度化を懸念」
アメリカ国務省のプライス報道官は31日、記者会見で「ウクライナ南部のヘルソン州でロシアが支配を制度化しようとしていることに懸念を抱いている。ロシアはおそらく、ドネツク州やルハンシク州で強行したようないわゆる『人民共和国』の国家承認から、クリミアで行ったような一方的な併合まで、さまざまな方法を検討していると見られる」と述べました。
そしてロシアがヘルソン州の掌握を重視する理由について「ロシアとクリミアが陸続きになる上、ある種の『勝利』を得ることによって、数千もの命が犠牲になったプーチン大統領の戦争を国内向けに正当化しようとしている」と述べ、軍事的と政治的なねらいの両面があるという見方を示しました。
セベロドネツク市長「市街戦が起きていて住民が避難できない」
ロシア軍はウクライナ東部ルハンシク州の最後の拠点とされる都市、セベロドネツクを掌握しようと攻勢を強めています。こうした中、セベロドネツクのストリュク市長が31日、NHKのオンラインでのインタビューに応じました。
この中でストリュク市長は「敵の砲撃は住宅や公共施設など避難に使えるすべての場所を標的にしている。また、市街地の真ん中で戦闘が行われているため住民を移動させることも不可能だ」と述べ、街が砲撃にさらされているうえ、市街戦が起きていて住民が避難できない状況に陥っていることを明らかにしました。
またストリュク市長は「薬や食料、生活必需品を運ぶルートはウクライナ軍への支援ルートとみなされ、常に砲撃を受けている状態だ」と述べたうえで、数日後にはあらゆるものが不足することになるとの見通しを示しました。そして街の防衛のためにはロシア側の砲撃の拠点を攻撃する長距離砲などが必要だと訴えました。
東部ルハンシク州 知事SNS投稿「ロシアが硝酸タンクを攻撃」
ウクライナ東部ルハンシク州のガイダイ知事は31日「ロシア軍がセベロドネツクの化学工場にある硝酸の貯蔵タンクを攻撃した」とSNSに投稿しました。
投稿された2枚の写真には、薄く赤みがかった煙が集合住宅とみられる建物よりも高い位置まで上がる様子が写っていて、ガイダイ知事は住民に対して有毒なガスが出ているとして避難場所から出てこないよう呼びかけています。この攻撃によるけが人などの情報は明らかになっていません。
一方、ルハンシク州のロシア側の幹部は、31日「化学工場で化学薬品が入ったタンクが爆破された。これは硝酸だろう。ここはまだウクライナ側が支配している地域だ」とSNSに投稿しました。ロシア側の攻撃ではなく、ウクライナ側による自作自演だと印象づけたいねらいがあるとみられます。
ザポリージャ原発に爆発物「核の大惨事のおそれ」公社危機感
ウクライナ南東部にあるヨーロッパ最大規模のザポリージャ原子力発電所はロシア軍の攻撃を受け、3月上旬から掌握されています。
ザポリージャ原発について、ウクライナの原子力発電公社エネルゴアトム社のペトロ・コティン総裁代理は31日、キーウ市内で開いた記者会見で、敷地内に500人以上のロシア軍兵士や軍用車両が配置され、作業員が銃撃される事態も起きていると指摘し「危険な状況となっている」と非難しました。
またロシア軍は敷地内に爆発物や兵器を置いているとして「爆発物が誤って爆発する可能性もあり、多くの核物質があるため非常に危険だ。ロシア軍は管理棟なども銃撃し破壊した。このような行動は核の大惨事につながるおそれがある」と、危機感を示しました。そのうえでコティン総裁代理は「ウクライナと世界の安全を確保するため、ザポリージャ原発をロシアの侵略者から解放する必要がある」と訴えました。
ドイツ向けなどガス供給停止を発表 ロシア政府系ガス会社
ロシア最大の政府系ガス会社ガスプロムは31日、イギリスの石油大手シェルに対して、ドイツ向けのガスの供給を停止すると発表しました。
停止の理由についてガスプロムは、シェルが天然ガスの購入代金をロシアの通貨ルーブルで支払うことを拒否しているためだとしていて、6月1日以降、ルーブルで支払われるまで供給を停止すると通知したということです。
これに対してシェルは「われわれはガスプロムが提示した新たな支払い条件に同意していない。多様なガス供給網を通じて、ヨーロッパの顧客にガスを供給し続けられるよう取り組んでいく」としています。
またガスプロムは、デンマークのエネルギー大手オーステッドについても、ルーブルでの支払いを拒否していることを理由に、6月1日以降、ルーブルで支払われるまで、ガスの供給を停止すると通知したとしています。
これについてオーステッドは31日、ガスプロムから通知を受けたとしたうえで「このシナリオに備えて準備を進めていたため、引き続き顧客にガスを供給できるだろう」としています
“侵攻開始から子ども264人含む少なくとも市民4113人死亡” 国連
国連人権高等弁務官事務所は、ロシアによる軍事侵攻が始まったことし2月24日から5月30日までに、ウクライナで少なくとも4113人の市民が死亡したと発表しました。
このうち264人は子どもだとしています。地域別では東部のドネツク州とルハンシク州で2337人、首都のあるキーウ州や東部ハルキウ州など、そのほかの地域で1776人の死亡が確認されているということです。
また、けがをした市民は4916人に上るとしています。
ただ、国連人権高等弁務官事務所は、激しい戦闘が続いた東部マリウポリなどでの死傷者については、まだ確認が取れていないなどとして、実際の死傷者の数はこれを大きく上回るという見方を示しています。
子ども 少なくとも243人死亡446人けが ウクライナ検察当局
ロシアの軍事侵攻で死亡、またはけがをした子どもの数について、ウクライナの検察当局は、5月31日の時点で少なくとも243人が死亡し、446人がけがをしたと発表しました。
死亡、またはけがをした子どもが最も多いのは東部ドネツク州で153人、次いで首都があるキーウ州で116人、東部ハルキウ州で111人、北部チェルニヒウ州で68人などとなっています。
また爆撃や砲撃による被害を受けた学校などの教育施設は1909か所にのぼり、このうち180か所は完全に破壊されたということです。