先週末の26日、FRBのパウエル議長はジャクソンホールの経済シンポジウムで講演した。ロイターによると8分間の講演概要は以下の通り。「インフレを低下させるために、トレンドを下回る成長が一定期間持続する必要がある公算が大きい。労働市況も軟化する可能性が非常に高い。金利上昇や成長鈍化、労働市場の軟化はインフレを低下させるが、家計や企業に痛みをもたらすだろう」。その上で、「残念ながらインフレ抑制にはこうしたコストが伴う」と指摘。だが、「物価安定の回復失敗はより大きな痛みを意味する」と強調した。「痛みが増大してもFRBが早期に緩和にシフトすることを想定すべきではない」とも主張する。一連の発言は何を意味するのか。市場ではこのところインフレのピークアウト説が台頭していた。パウエル氏は「それは間違いだ。多少の痛みを伴っても引き締めを続ける」、要するに市場の楽観論に釘を刺したのである。

これを受けてピークアウト説に浮かれていたNYダウは1000ドル強急落した。想定外の発言にショックを受けたのである。ブルームバーグによるとサマーズ元財務長官はこの発言を受けて「毅然とした態度の表明だ」と述べ、珍しくパウエル議長を称賛した。同氏はこれまでパウエル氏の対応が手ぬるいと厳しく批判し続けていた。パウエル氏を賞賛することで、浮かれ気味のマーケットに警告を発したのだろう。この講演のあとNY市場の時価総額は一瞬にして780億ドル(約10兆7300億円)吹き飛んだとブルームバーグは伝えている。富裕層が巨額の損失を被ったことよりも、これによる景気の失速の方に意義があるということだろう。米国は富裕層に限らず一般庶民まで株式投資を積極的に行っている。保有資産の目減りによる買い控えで、米景気はパウエル氏の想定通り後退する可能性がある。同氏がそこまで見込んでいたとすれば、それはそれですごいことだ。

ジャクソンホールで討論に参加した黒田日銀総裁。ロイターによると「日本のインフレのほぼ全てが商品価格上昇によるものだ」と説明。「インフレ率について、年内は2

%または3%に近づく可能性があるが、来年には1.5%に向けて再び減速すると予想している」と述べたそうだ。市場が期待するインフレピークアウト説に近い。米国のインフレも「商品価格上昇」による影響が大きい。だが米国はそれに伴って製品価格が上昇し、つれて給料が上昇する。日本は食料品を除くと製品価格は上げ渋り、給料はほとんど上がらない。だから「緩和を継続する以外に手はない」と思い込む。そうだろうか。米国では市場機能が円滑に働いている。材料費が上がれば製品価格が上がる。つれて給料も上げる。日銀は力で金利を抑え込む(YCC)。だから製品価格も上がらず、給料も上がらない。高い壁を作ってインフレを防御するが、一方で経済の活力のみならず日本人のやる気を奪い取っている。黒田さん、違いますか・・・?