岸田首相は先週、来年度予算が衆議院を通過、年度内成立が確実となったことを受け、自民・公明両党に対して新たな物価対策の策定を指示した。検討時期は3月中旬まで。すでに水面下で検討が進んでいるのだろう。昨年10月の総合物価対策に次ぐ第2弾となる。検討課題は山ほどある。賃上げの原資が確保できない中小企業対策、低所得者に対する支援策、実質的な減収がつづく家計対策など、いずれも急を要する課題だ。中でも気になるのが年金生活者の物価対策だ。年金の支給額は来年度、ほんのちょっと増えるようだ。だが急激な物価上昇には追いつかない。というよりは実質的には年々減少している。これが年金生活者の実感だろう。現役世代は大企業中心に例年にない賃上げが実現しそうな雰囲気だ。そんな中、中小企業で働く労働者や年金生活者は取り残されるかもしれない。年金生活者に賃上げはない。岸田政権、ここはどうするのだろう。

周知の通り現在の年金制度には「マクロ経済スライド」が入っている。2004年の年金改革の際に導入されたものだ。それまでは賃金や物価の上昇に連動して年金の支給額も増えていた。少子高齢化が進む中で年金の破綻不安が世の中に蔓延していた。それを打ち消すように「100年安心」の謳い文句で、世間を納得させた支給額の抑制策がスライド制だ。これによって自民・公明の両党は「年金破綻」という疑念を打ち消し、年金生活者ではなく年金制度を守ったのである。この制度が導入された当時、日本はデフレの脅威に晒されていた。この制度の本来の狙いはデフレ時に支給額を削減し、インフレ時には支給額を抑制するというものだが、デフレ時の削減を見送ることで制度導入に向けた環境整備を図ったのである。その制度が予想を遥かに超えてインフレが進行する中で生き返った。

1月の消費者物価は前年比で4.2%上昇している。これに対して総務省が発表している家計調査によると、昨年12月の勤労者世帯の実収入は前年同期比マイナス0.4%だ。物価が上昇している中で勤労者の実質収入は減少しているのである。これを年金だけを頼りに生活する高齢者に限ると、収入は一定なので物価上昇分だけ生活は苦しくなる。もちろんマクロ経済スライドのもとでも物価の上昇を反映して支給額も増額される。とはいうものの物価上昇分からスライド調整分を差し引いた分が増額されるだけで、物価上昇分に支給額が追いつくことはない。だから年金だけを頼りにする高齢者の生活は決して楽にはならない。ただでさえ後手に回っている岸田政権の物価対策、ここにも生活者の不満が鬱積する要因がある。不満が鬱積すれば世の中の空気は不穏になる。機敏な物価対策が必要になる所以だ。