インフレが沈静化しそうな雰囲気の中で、今度は超低金利を維持する異次元緩和の修正を目指す動きが始まった。今朝のブルームバーグ(BB)は以下の記事を配信した。「日銀政策は『正常化すべき時』、財政への忖度不要-吉川東大名誉教授」。リードにはこうある。「吉川洋東京大学名誉教授は、日本経済がインフレの状態にある中で、日本銀行は金融政策を正常化すべき局面にあるとし、金利上昇が日本の財政に与える影響にも忖度(そんたく)すべきではないとの見解を示した」。こういう記事が出るのが遅すぎると思うが、とりあえずそれは脇に置くとして、吉川氏と言えば少し前まで財政制度等審議会会長や経済財政諮問会議議員、政府税制調査会委員などの要職を歴任した人。いってみれば学者として経済運営の羅針盤を果たしてきた人だ。その人がついに異次元緩和の出口論を言い出した。もっとも重要なフレーズは「財政に与える影響にも忖度(そんたく)すべきではない」、このひと言だ。
逆に言えばこれまでの日銀は「財政に与える影響に忖度してきた」ということになる。黒田前総裁は財務省の出身だ。異次元緩和を強引に続けた背景には「財政」、つまりは財務省への「忖度」があったということになる。個人的には忖度以上のものがあったという疑念を抱いている。ゼロ金利を維持すれば国債の利払い負担がものすごく軽くなる。異次元緩和が何の効果もないのに10年も続いた裏には、財政の健全化を優先する財務省の強力な圧力があったのではないか。これは単なると邪推に過ぎないが、吉川氏があえて「金利上昇が財政に与える影響にも忖度すべきでない」と強調すること自体が、邪推の正当性を実証している。黒田前総裁に代わって経済学者の植田氏が日銀総裁に就任したことによって、財務省と日銀の力関係に若干の変化が起こり始めている。そんな中で異次元緩和の修正に向けた動きが水面下で蠢き始めているのではないか。
植田総裁も22日に衆院の予算委員会で以下のような証言をしている。「賃金上昇を反映する形でサービス価格が緩やかに上昇する姿は続いている」、そのうえで「(インフレは)去年までと同じような右上がりの動きが続くと一応、予想している。そういう意味で(足元の物価情勢は)デフレではなくインフレの状態にある」と。日銀が重視する「基調的な物価上昇率」は相変わらずデフレっぽいが、リアルエコノミーはインフレ化している。この変化は少なくとも一昨年の夏頃から続いている。デフレ逆戻りを懸念する財務省、インフレを言い出した日銀。財務省と日銀の戦争勃発だ。形勢はやや財務省に有利か。助っ人を買って出た吉川氏は植田総裁とは駒場高校、東大の同期。昨年5月から日銀参与を務める。植田総裁による正常化に向けた取り組みは「世の中にも理解されている」と分析、「ここまで来たらあと一歩だ。清水の舞台から飛び降りるということではなく、今の状況を踏まえて出口に向かえばいい」と後押しした。
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