最初は何を言っているのかな、と思った。会見は「正直、ショックという言葉が正しいとは思わない」という大谷の言葉で始まる。ショックじゃなかったということ?いやそうじゃない。「うまく言葉には表せないような感覚でこの1週間ぐらいはずっと過ごしてきたので、今それをうまく言葉にするのは難しい」、なるほど、そういうことか。通訳でもあり気の置けない友人でもあり、細々とした日常生活の“伴侶”でもあった水原一平氏に裏切られた複雑な心境を表現すると、こういうことになるのか。ショックを超えるショック、それは他人の想像を超えた心理状態なのだろう。そして「まず皆さん、来ていただいてありがとうございます。僕も話したかったので、うれしく思っています」。大谷も話したかったのだろう。メディアを通じて発信される疑惑の数々、この一言にこの1週間の大谷の心理状態が凝縮されている。

「チームの関係者の皆さん、僕自身もそうですけど、ファンの皆さんも、ここ1週間ぐらいですかね、厳しい1週間だったと思うんですけども、メディアの皆さんも含めて、我慢とご理解をしていただいたのはすごくありがたいなと思っています」。大谷らしい言い方だ。言葉の端々から滲み出る素直さ、正直さ。これが大谷人気を支えるもう一つの要素でもあるような気がした。会見そのものは大谷の一方的な見解表明の場であり、質疑応答なし。こんな条件をつけると記者は普通、猛烈に反発するものだ。だが約12分の会見は「今日まずお話できてよかったかなと思っているので、今日は質疑応答は、これが今お話できる全てなので、質疑応答はしませんが、これから更に進んでいくと思います」で終了する。1000人を超える記者が集まった会見がすんなりと終わる。これも大谷の人柄のなせる技なのかもしれない。

会見を聞いた率直な感想は「腑に落ちる」内容だったということだ。特に良かったのは、韓国での開幕戦が終わった後の出来事を時系列で説明したことだ。一平氏にまつわる疑惑でこれまで明らかになっているファクトは、米スポーツ専門局のE S P Nが配信した一平氏に対するインタビューだけ。当初は大谷と合意の上で大谷自ら一平氏が負った借金の肩代わりをしたという説明だったが、数時間後に「大谷は何も知らなかった」と180度発言内容をひっくり返す。その経緯をE S P Nは最終的に時系列に整理している。とはいえ、この整理だけでは大谷をはじめ球団、弁護士、広報など水面下の動きがわからない。その穴を埋める形で大谷は裏側の動きを時系列で丁寧に説明した。これによって一平氏の発言がすべて嘘、球団も広報も弁護士も当初一平氏に騙されていた実態が明らかになった。これですべてが氷解したわけではないが、疑惑の核心(借金の肩代わり)は払拭された気がする。

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