植田日銀総裁がどうやら、ちょっぴりだが、円安に対する警戒感を強めているようだ。ブルームバーグによると昨日都内で講演を行い、次のように語ったという。「物価見通しが上振れたり、あるいは上振れリスクが大きくなった場合には、金利をより早めに調整していくことが適当になると考えられる」と。26日の金融政策決定会合後の記者会見で同総裁は、記者から「現在の円安は無視できるか」と問われ「はい」と答えた。この発言がメディアによって「円安無視」と短絡的に伝えられ、円相場が急落した経緯がある。これを受けて財務省はG Wの最中に海外市場で円買い介入(8兆円規模といわれている)を行い、円安防止に踏み切っている。円安無視発言は黒田前総裁の「庶民は物価高を受け入れている」発言と瓜二つ。要するにこの2人、物価高に苦しむ庶民感覚が完全に欠落しているのだ。

植田発言には同情の余地がないわけではない。この時の発言は金融政策の要である「基調的なインフレ」に対する影響は「無視できる」との趣旨だったが、つまみ食い得意なメディアはこれを「円安無視」と短絡的に報道した。これが世界中の為替ディーラーを刺激して円売りが加速したのだ。言葉遣いには常に細心の注意を払っているとされる植田総裁にしては杜撰な「はい」だった。だが個人的にはそれが逆に、植田総裁の普段の生活を抉り出しているような気がする。総裁はおそらくスーパーやコンビニで買い物などしたことはないのだろう。学者として、あるいは日銀総裁として、円安の及ぼす影響をロジカルに分析することはあっても、物価高を実感することはない。だから円安、輸入物価の高騰といった庶民の生活感覚に思いが至らなかった。個人的にはこれが日本の為政者(政府、政治家、官僚、日銀幹部、財界人、学識経験者など)特有の政策決定のプロセスだと思う。庶民、あるいは国民無視の政策決定なのだ。

アベノマスクを持ち出すまでもないだろう。異次元の少子化対策の財源は社会保障制度のシステムを使って徴収される。だから増税ではないと為政者は強調する。まるで庶民を馬鹿にした発想だ。環境省の職員は水俣病患者の声を聞く懇談会の席上、時間オーバーを理由に発言者のマイクのスイッチを切った。懇談会運営上のルールと強調するが、そうではないだろう。最初から庶民の声など聞く気がないのだ。自民党の裏金づくり、岸田総理は規正法の改正で罪を償うというが、それは二の次、三の次だ。問題の本質は自民党には有権者(庶民)を無視する政治家がごまんといることだ。植田総裁には悪いが、「円安無視」の一言は日本の為政者の本質を抉り出した。庶民に寄り添うふりをしながら勝手に庶民に背を向け、肝心な時には無視をする。為政者が決定する政策は一体誰のためのものなのか。国民、有権者、庶民はいつも無視されている。

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