世界中で金利が上昇傾向を強めている。直近1カ月の主要先進国の10年物国債利回りを見ると、こうした傾向が顕著に読み取れる。
例えば米国。直近の利回りは4.60%〜4.67%と5%に近づいている。一時は3%台後半まで低下していたことを思えば、急上昇していると言っていいだろう。イラン情勢の緊迫化やトランプ大統領の発言が揺れるたびに乱高下しているが、金利自体は着実に底上げされている。これがドル高を招き、円安に歯止めがかからない一因でもある。
他の先進国を見ても、英国(10年物ギルト債)は4.35%〜4.45%で推移し、フランスは3.80%〜3.90%、ドイツは2.55%〜2.65%となっている。インフレ率や経済成長率の違いによって利回りに差はあるものの、全体としては物価上昇に連動した動きだ。
問題は日本である。日本も最近は国際的な潮流に追随しているが、相変わらず先進国の中では最も低い水準で推移している。直近の10年物国債の利回りは2.75%〜2.80%だ。それでもドイツを上回る水準まで上昇しており、異次元緩和時代の「ゼロ金利状態」からは完全に脱出している。
18日には、日本の10年物国債利回りが2.8%に達し、1996年以来の高水準を記録した。主要メディアはこの現象を捉えて「約30年ぶりの高水準」と、まるで危機が迫っているかのように報じた。株価が上昇しても冷ややかに無視するメディアだが、金利の上昇にはことのほか敏感である。毎日新聞は「高市首相が補正予算の編成検討を指示したことで財政不安が意識され、債券売りの圧力が強まった」(18日付)と見当違いの分析をしていた。
主要メディアは、金利上昇がまるで悪であるかのような論調を能天気に垂れ流している。確かに、経済の実勢を無視した急激な金利上昇はあってはならない。とはいえ、景気が拡大したりインフレが進んだりすれば金利が上がるのは、経済の基本原則である。要するに金利とは、市場経済を基盤とする国において、数多ある経済要素のバランスの上に成り立つものだ。このバランスを無視して作為的に金利を操作するのは御法度だが、経済の体温に合わせて金利が追随するのは至極当然のことである。
昨今の日本における金利上昇は、国際的な動きに連動したマクロ経済バランスの改善プロセスの一環に過ぎない。為替市場で起きている投機的な円安とは性質が異なる。
ただ、異次元緩和の行き過ぎを是正し、金融政策の正常化を目指しているはずの植田日銀総裁が、政策金利の引き上げをためらっているように見える点は気がかりだ。1〜3月期のGDP速報値は、物価変動の影響を除いた実質で前期比0.5%増、年率換算で2.1%増と2四半期連続のプラス成長を記録した。にもかかわらず、4月の金融政策決定会合で政策金利を据え置いたのは解せない。0.25%の利上げに踏み切るべきではなかったか。
日本では、主要メディアを中心に金利の上昇を快く思わない勢力が根強い。彼らは「金利が上がれば景気が悪化し、景気が悪化すれば賃金が上がらない。だから物価上昇も金利上昇も抑え込むべきだ」という誤った因果関係を信じ込んでいる。
本来のメカニズムは逆だ。物価が上がれば金利も上がり、企業の名目売上も伸びる。売上が増えれば賃金も上がる。これが健全な経済サイクル(バランスシフト)である。現に米国では、物価上昇を上回るペースで賃金が上昇している。ここが肝心なポイント(ミソ)なのだが、日本の経営者や政治家、官僚など主流派のメンタリティーには、この視点が決定的に欠落している。