東大の総長選は、教員による意向投票で2倍の差をつけて1位となった染谷隆夫氏が落選し、2位の藤垣裕子氏が指名された。俗な言葉で言えば、藤垣氏の大逆転勝利である。最終的に指名したのは、総長の最終決定権を持つ「総長選考・監察会議」だ。議長は、NHKでニュース番組などを担当したジャーナリストの国谷裕子氏。ところが、逆転指名の理由はほとんど説明されていない。そこがまた、疑惑を招く要因になっている。
東大の総長は、かつて教員の投票によって選出される仕組みになっていた。それが法律改正によって、教員による投票は「意向投票」に格下げされ、最終決定権は「総長選考・監察会議」に移管された。法律上、今回の総長選考は適正なのだ。
では、どうしてこの投票結果がネット上で大きな反響を巻き起こしたのか。
直接のきっかけは、自民党の甘利明氏がネット上で、「大差で1位になった候補者が、どうして選出されなかったのか」と疑問を投げかけたことだった。この投稿に対して異論も含め、さまざまな反応が殺到した。筆者も、この投稿によって総長選問題を知ったのである。
総長選の候補者は5人。上位2人の意向投票の結果は、第1回投票が染谷氏818票、藤垣氏400票。上位2人による決選投票では、染谷氏1107票、藤垣氏553票で、いずれも染谷氏が大差で勝利している。
投票結果が大差だったことに加え、総長選出の決定権を持つ「総長選考・監察会議」が、意向投票の結果を覆すかのような逆転指名を行ったことが、「循環疑惑」の始まりである。
実は、投票で1位になった染谷氏には、「約9000万円の不正取引」疑惑が付きまとっている。念のため付言すれば、これを現時点で「不正取引」と断定できるのかどうかも明らかではない。不正取引に関係があるのではないか、との疑念が世間を騒がせている――というのが、現時点での疑惑の実態である。
この問題が発覚したのは今年7月。染谷氏と密接な関係にある東大大学院工学系研究科の一般財団法人「総合研究奨励会」で、元業務執行理事・事務局長による約9000万円の不正取引が発覚したのだ。この取引は10年間にわたって続いていたが、染谷氏は2020年から2023年まで、この奨励会の代表理事を務めていた。
代表理事としてこの取引の存在を知っていたのではないか。あるいは、知らなかったとしても、管理職としての善管注意義務違反に該当するのではないか。ありていに言えば、これが染谷氏にまつわる疑惑である。
「総長選考・監察会議」は、当然この問題を承知していたであろう。日本の知の拠点である東大の総長として、染谷氏が適任なのかどうか。当然、議論になったはずだ。
だが、国谷氏は逆転指名の理由として、この疑惑との関係を一切説明していない。誰もが疑問を抱くだろう。なぜなのか。
奨励会の問題については、東大が7月10日に公表している。そして、総長選候補者は8月19日に公表された。9月11日には、奨励会のガバナンス問題について発表が行われている。主要メディアも、この問題を取り上げている。
そして、意向投票が行われたのが9月28日だ。東大教員が、染谷氏をめぐる問題を知らなかったはずがない。それでも、染谷氏は藤垣氏の約2倍の得票を集めている。なぜなのか。
一方、「総長選考・監察会議」も、この問題と逆転指名との関係を一切説明していない。ここにも「なぜ?」が付きまとう。
なぜ、なぜ、なぜ――。
日本の権力の中枢で、日本をリードしてきた東大。そこに疑惑があるのであれば、その実態を解明するのが警察・検察の役割だと思うのだが、警察・検察の中枢を占めるのも東大OBだ。官僚国家の頂点に君臨するのも東大。税金も予算も、東大の「金時計組」が実権を握っている。日本の権力の構造問題でもある。
総長選の決定権を握る「総長選考・監察会議」のメンバーは、どんな人たちなのだろう。
次なる疑問が湧き上がる。