木原稔官房長官が11日、NHKの「日曜討論」に出演し、「責任ある積極財政」の現状について「成長の好循環が少しずつ見えてきた」と発言した。この番組を見たわけではないが、積極財政支持派にとっては気になる発言だ。これが事実なら、今後の日本経済に希望が持てる発言と言っていいだろう。そこで、この発言を検証してみた。
ロイターによると、木原氏は「設備投資や雇用の増加が賃金上昇につながり、消費の増加、企業の事業収益、税収増などにつながる成長の好循環が少しずつ見えてきた」と分析した。これは本当だろうか。
まずは「責任ある積極財政」の肝ともいうべき設備投資の動き。日本銀行の「全国企業短期経済観測調査(9月短観)」によると、全産業の設備投資計画は2025年度の前年度比8.5%増に対し、2026年度は9.3%増と堅調だ。
これを企業規模別に見ると、大企業は2025年度の9.2%増から2026年度は11.0%増、中堅企業は8.1%増から8.4%増、中小企業は5.3%増から1.6%増となっている。中小企業の出遅れ感が気になる。
以上は計画ベースの数字。では、実際の投資額はどうなっているのか。
財務省が9月1日に発表した2026年4~6月期の法人企業統計によると、設備投資は全産業ベースで前年同期比1.6%増と、6四半期連続で増加している。一方、前期比では1.5%増にとどまり、プラスとなったのは2四半期ぶり。一直線に増加しているわけではない。
このほか、企業の売上高は前年同期比5.9%増、経常利益は同24.6%増と急増している。一方、実質GDP成長率は0.4%、8月の家計消費支出は前年同月比3.1%減だった。
企業収益が急増している半面、個人消費はマイナスだ。賃上げがインフレに追いつかず、家計の購買力が十分に回復していないことがうかがえる。企業だけがもうかる傾向は改善されていない。
以上の統計を見る限り、大企業を中心に日本経済は着実に改善している。しかし、これが積極財政によるものなのか、それとも従来の経済政策の延長線上で起きている動きなのか、判然としない。積極財政の効果を示しているとも、示していないとも言い切れないのが、統計から読み取れる結論だろう。残念ながら、まだ「好循環の予兆」とは言い切れない。
設備投資については、着実な増加傾向が読み取れる。だが、政府が先導役を果たし、これに呼応して企業も積極的な投資姿勢に転じたとは言い切れない状況だ。「責任ある積極財政」が本格的に浸透するには時間がかかるということだろう。要するに、それまでの政府の対応が重要になる。
政府は現在、来年度予算の査定作業を本格化している。消費税減税の財源確保に向けては、日本版DOGE(政府効率化局=Department of Government Efficiency)が本格的に稼働しており、租税特別措置や補助金、基金の見直し作業が始まっている。
高市首相は「ガツガツやれ」と見直しチームに発破をかけている。とはいえ、ここから生み出される財源だけで消費税減税のすべてを賄えるわけではない。
既存予算の削減作業が始まったことは、財政健全化と投資拡大の両立を目指す「責任ある積極財政」の宿命だろう。予算カットは決して簡単にできるものではない。
朝日新聞に「ラスボス」と呼ばれた宮沢洋一氏のインタビュー記事(12日付)が掲載されている。そこには「岸田政権では防衛費の増額や子ども・子育て支援の強化が決まったが、頭に浮かぶ財源はそのときにほぼ全て食べつくしてしまっていて、もう私にはなかなか思いつかない」とある。
情けない政治家だ。時代の変化に追いついていないようだ。増税しか頭にないのだろう。政治家の哀れな姿を露呈している。
要するに、既存予算をどれだけ削減できるか。そして、新しい財源をどれだけ生み出せるか。これが「責任ある積極財政」に突きつけられた課題でもある。
好循環の予兆はまだ雰囲気にすぎない。勝負はこれからだろう。