日本新聞協会と全国の会員報道各社は、10月15日から始まる「新聞週間」に合わせ、LINEヤフーの会長を6月まで務めた川辺健太郎さんにインタビューした。「Yahoo!ニュース」責任者として手がけた「ヤフコメ」の導入の狙いや、AI時代のメディアと生活者の関係などについて聞いた。川辺健太郎さん(本人提供)

キャンピングカーで全国巡る
――6月にLINEヤフーの会長を退き、人工知能(AI)を活用して1人で事業を展開する「AIソロプレナー」として起業されました。7月からは、キャンピングカーで全国を巡る旅にも出られています。
長らくインターネットの世界で事業を続けてきましたが、AIの登場で、ネットが築いてきた世の中が劇的に書き換えられるだろうと直感しています。これまでのネット関連企業において特徴的だった、そして自分もその起業家の一人として続けてきた「目の前のペイン(不便や不満)を解決する」というサービスは、もうビジネスとして成り立たなくなるんじゃないか。一人一人がおのおのAIを使うことで、そういった課題解決は個人で完結するようになるからです。
ネット大企業の会長という肩書を降ろしてAIとともにビジネスを展開していく中で、何を事業として提供できるかを、じっくり考えようと思いました。日本の課題や強みをこの目で見ておきたいと思い、全国を巡る旅に出ています。日本中でいろんなものを見たり、そこに暮らす人々と触れ合ったりして、事業展開のアイデアや課題を発見できたらと考えました。
――昨年9月にご自身のユーチューブチャンネルでライブ配信を始め、読んだ新聞記事の感想や意見を述べるコーナー「朝刊初見読み」を続けています。チャンネルを開設した経緯や、コーナーを始められた理由は。
AI時代に求められるビジネスパーソン像は、「シゴデキ(仕事ができる人)より人気者」だと思っています。高性能なAIを使えばあらゆる仕事が高度に平準化される中で、人々の購買行動を左右するのは「好きかどうか」。僕もSNSを通じた発信を強化していこうという考えの一環で、ユーチューブの個人チャンネルを開設しました。
配信で何を話そうかと考えたとき、時事問題に対するコメントは視聴者の需要があるのではないかと思いました。僕が毎日、新聞を読みながらつぶやいているような独り言を配信したら、面白がってくれる人がいるんじゃないかな、と。IT企業の社長、会長を務めた人物が日々のニュースをどう読み解いているのかを発信することで、ビジネスパーソンの情報処理スキルの向上につながればという思いもあります。
今、特にSNSでの情報発信において、フェイクニュースがもたらす混乱が問題になっていますよね。ビジネスパーソンとして正しい情報発信をしようと心がけている中で、そういった偽情報を根拠に話をするわけにはいかない。ジャーナリストとして訓練を受けた記者が、コストをかけて作った記事を基に見解を述べるということは、このSNS時代にとても重要です。僕自身、安心して話せるというのもありますね。
新聞で社会の変化分かる
――そもそも、新聞を読み始めるようになったきっかけは何だったのでしょうか。新聞を読むことのメリットはどんなところにあると感じられますか。
高校3年の夏休みの宿題で、新聞の切り抜きをしたことがきっかけです。読み始めたら「結構面白いな」と感じて、以来、毎日読むことが習慣になりました。長期的に継続して読んでいると、社会のダイナミックな変化がよく分かるんです。僕が大学生だった1995年頃、「インターネット」という言葉が新聞のあらゆる面に頻繁に登場するようになりました。何かすごい変化が世の中に起きているんじゃないかと思い、インターネットというものに興味が湧いたんです。川辺健太郎さん(本人提供)
大学3年でインターネットベンチャーの起業に踏み出せたのは、世の中の変化にいち早く気づけたおかげでもあります。約3年間、継続して新聞を読み込んでいたからこそです。
――その後、起業したベンチャー企業がヤフーと合併し、「Yahoo!ニュース」の責任者として新聞記事を取り扱う機会も多かったと思います。中でも2007年に始まった、配信記事を閲覧したユーザーが意見や感想を投稿できるコメント機能(ヤフコメ)は画期的でした。導入にあたり、既存メディアに対して期待することがあったのでしょうか。
新聞を愛読する一方で、新聞社などの既存メディアが「これが世の中の見方だ」と一方的に発信し、発信の手段を持たない読者がそれを受け取る、という関係性に疑問を抱いていました。インターネットの登場で情報の双方向性が生まれたわけですから、その固定化された関係も変わるべきなのではないか、と。そうして生まれたのがヤフコメです。
例えば新聞社が「美談」として発信した記事に、「これはおかしい」という批判だったり、全く異なる視点からの意見がついたりする。多様性の時代ですから、そんな「冷や水を浴びせるようなものの見方」も公開した方が良いと思いました。ヤフーには既存メディアからの転職組も多かったので、提案したときには猛烈な反発を受けましたね。でも、メディア側も読者からの批判に触れ、時にそれを受け入れて考えを柔軟に変化させていくことは、言論空間にとって望ましいはず。今もそう信じています。
新聞社を経営したら
――ヤフコメ誕生から20年近くたちました。SNSやAIの登場で、新聞社と読者の関係はさらに変化していきそうです。
新聞社が発信したニュースを原案として、AIで映像化してドラマを作ってみたり、歌を制作したりするような「二次創作」の動きは今後、どんどん広がるのではないでしょうか。今すでに、そういったムーブメントが一部で見られています。
そういった創作物がSNSで発信されれば、ニュースを見ようと思ってSNSを開いたわけではないユーザーの目にも留まります。そこから元のニュースを確認してみようと、記事の閲覧に向かう流れも起きる可能性があるんじゃないかと予想しています。
――誰もが情報発信者となりうる現代、新聞社の情報が必要とされ、周りの人におすすめしたくなるような信頼や愛着を得るにはどうしたらいいのでしょうか。もし川辺さんが新聞社を経営するとしたら、どんな工夫をされますか。
難しい質問ですね。一つ言えるのは、AIを悪用すれば精巧な偽情報を簡単に作れるようになってしまった今、ファクトが担保された新聞記事の価値が高まっているのは確かだと思います。ただし、少子化が進み市場全体が縮小していく中で、新聞各社がファクトを報じるだけで収益を上げるのは限界となりつつある。ファクトを発信し続けるにはどうすべきか、新聞業界全体で考えていく必要があるのではないかと思っています。
他方で、新聞には論説や提言といった、新聞社や記者の個性が表れるオピニオン記事もあります。ここに活路があるとみています。
先にお話しした、AI時代の「シゴデキより人気者」とも関連しますが、今、あらゆる商品が「推し活」化しないと売れないと言われています。新聞社も、オピニオンに関しては新聞社や記者ごとにファン、フォロワーの獲得を目指すような、推し活を意識した展開があっても良いのではないでしょうか。さまざまな推し活コンテンツを見ても、日本人はモノや概念を擬人化するのが大好きですから、各社の論調や個性を表象したキャラクターを作って、SNSで発信しても面白いかもしれません。
さまざまなオピニオンが存在することは、民主主義を守る上でも大切です。時代が変わっても、記事でファクトが担保されていること、そのファクトを基にした多様なものの見方が存在すること。新聞の意義は、ここにあると考えています。
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かわべ・けんたろう 1974年生まれ。東京都出身。大学在学中の95年に携帯電話向けインターネット事業を手がける電脳隊を設立。会社の合併に伴い2000年、ヤフー(現LINEヤフー)に入社。「Yahoo!ニュース」、動画配信サービス「GYAO!」などを担当。代表取締役社長CEO、代表取締役会長を計8年間務め、26年6月に退任。AIを用いた新たなビジネスを計画している。