イスラエルの総選挙が終了した。地元メディアなどによる出口調査では、ベンヤミン・ネタニヤフ首相率いる与党リクードを中心とする与党陣営と、ガディ・アイゼンコット元軍参謀総長を中心とする野党陣営が拮抗している。
主要メディアが発表した当初の出口調査による議席予測は、以下の通りだ。
・ネタニヤフ首相支持陣営:50議席前後
・アイゼンコット氏を中心とする野党陣営:52~53議席
・アラブ系政党:17~18議席
イスラエル議会の総議席数は120で、過半数は61。出口調査によれば、与野党いずれの陣営も過半数に届かず、今後、熾烈な連立工作が展開されることになる。与野党とも内部は一枚岩ではなく、少数政党が分立している現状では、ネタニヤフ氏、アイゼンコット氏の双方とも連立工作の難航が予想される。
新たな連立政権が樹立されるまでは、暫定政権の首相としてネタニヤフ氏が続投することになる。連立交渉が長引けば、それだけネタニヤフ氏の政権が続くことになるだろう。
また、仮に野党陣営が連立政権の樹立に成功し、アイゼンコット氏が首相に就任したとしても、同氏はガザでの軍事作戦を支持してきた人物だ。ガザ問題が直ちに平和的解決に向かうとは考えにくい。
とはいえ、右派勢力を代表するネタニヤフ氏の退陣が決まれば、中東情勢のみならず、ウクライナ戦争やトランプ政権の外交戦略にも大きな影響を及ぼすことは間違いないだろう。
ネタニヤフ氏を強く支持してきたトランプ大統領にとって、その退陣は大きな痛手になるとの見方がある。果たしてそうだろうか。
ネタニヤフ氏が退陣すれば、米国はガザ、ウクライナ、イランという三つの戦争への対応を、これまで以上に自ら主導しなければならなくなる可能性がある。超軍事大国の米国にとっても、これは決して簡単なことではないだろう。
関税問題を見るまでもなく、西側諸国との関係を悪化させてきたトランプ政権だ。価値観を共有するはずの西側諸国から、十分な協力を得られるかどうかも不透明だ。
しかし、ネタニヤフ氏退陣の痛手は、裏を返せば「ネタニヤフ氏のくびき」からの解放でもある。
一刻も早く戦争を終結させたいと考えているトランプ氏は、ネタニヤフ氏の退陣を利用し、三つの戦争の終結に向けて外交攻勢を強めるかもしれない。
トランプ氏はこれまで、ガザの停戦に向けた「和平計画」を策定し、イランとも今年6月に一時的な停戦で合意した。ウクライナ戦争の終結に向けては、ロシア寄りとも受け取れる姿勢を示してきた。だが、こうした一連の取り組みはいずれも、持続的な停戦や和平の実現には結びついていない。
なぜだろうか。
いずれの停戦仲介にも、トランプ氏の本音である「アメリカ・ファースト(米国第一主義)」や「MAGA(米国を再び偉大に)」が見え隠れしているからではないか。
ガザでは、パレスチナ人がイスラエルに対して抱く長年の怨恨や不信感を十分に考慮せず、「カネで問題解決を図ろう」としているように見える。
ウクライナでは、EUや北大西洋条約機構(NATO)への接近を望むウクライナ国民の深層心理に寄り添わないまま、ロシア寄りの停戦協議にひた走っている。
イランでは、核兵器開発の阻止を表向きの理由に掲げているものの、その背後には中間選挙を意識した国内政治上の思惑や、アメリカ・ファースト、さらにはノーベル平和賞への野心まで見え隠れする。
しかし、問題の本質は、イラン国民や指導部が米国に抱いている根深い「不信感」にあるのではないか。ガザでもウクライナ戦争でもそれは同じだ。三つの戦争の停戦協議を阻んでいるもの、それは米国に対する不信感だろう。
トランプ氏は、この不信感の解消という根本的で本質的な問題に十分向き合わないまま、軍事力とカネを背景に停戦を成立させようと、一見ひたむきに努力している。しかし、力による圧力や経済的利益の提供だけで、不信感が解消するわけではない。
停戦の実現に向けてトランプ氏に不信感の解消を伴う停戦交渉、すなわち己を無にして歴史に名を刻む和平仲介者としての役割を期待するのは、そもそも無理なのだろう。