[香港 10日 ロイター] – 任天堂(7974.T)のゲームソフト「あつまれ どうぶつの森(あつ森)」が世界的ヒットを収めているが、中国ではこのゲームが政治的な火種になっていることもあり、ファンは制限がかかってない家庭用ゲーム機「ニンテンドースイッチ」の輸入品を上乗せ料金を払って買うなど、工夫を凝らさないと遊べない状態だ。 

新型コロナウイルスの大流行によって世界各地で外出が規制されている今、「あつ森」はプレーヤーが仮想世界に自分の分身や自宅を作り上げ、他のプレーヤーと交流して現実逃避できる遊びとして、ベストセラーになった。しかし、ゲーム産業を厳しく規制している中国では、販売が認可されていない。 

中国のプレーヤーは、あつ森の機能をフルに使うため、仲介業者が海外から持ち込む接続制限なしの「ニンテンドースイッチ」を、最大50%の上乗せ料金を払って入手したり、決済のために海外銀行に口座を作ったり、海外にあるこのゲームのサーバーにアクセスするため、より高速のインターネット接続を利用している。 

家庭教師のシャオ・ティアンユーさんは2月、中国電子商取引大手・アリババ傘下の淘宝網(タオバオ)で、「非正規」の業者からスイッチを買った。「みんなそうだと思うが、しばらくするとだれかと話したくなったり、出掛けたくなったりする。でも、感染症が広がっている間は、そうした機会があまりない」と、シャオさんは話す。「このゲームで互いにコミュニケーションが取れる」 

「あつ森」は歴代の外国製ゲームの中で最も人気が高いと、アナリストらは指摘する。プレーヤーは自ら創作した仮想の島で、現実世界をまねて体温チェックやマスク着用を義務付けたりして遊び、習近平国家主席の写真をあしらった愛国的なポスターを掲げる例も見られる。 

しかし、香港の民主化運動活動家、黄之鋒(ジョシュア・ウォン)氏が「あつ森」を使って本土政府を批判して以来、中国政府は違法販売の取り締まりに乗り出した。このため中国本土では今、「あつまれ どうぶつの森」ではなく「木の枝を採るマッチョマン」、「バス釣りをするマッチョマン」などの隠語を使い、オンラインで販売に応じてくれる業者を探さざるを得なくなっている。 

<中国版は接続制限> 

任天堂は昨年12月から、ネットサービス大手、騰訊控股(テンセント・ホールディングス)(0700.HK)と提携し、中国でもスイッチを販売している。しかし、このバージョンは、海外サーバーへの接続を阻止するためのサーバーロックが施されている。 

闇市場で入手した「あつ森」の複製でプレーできると思ってテンセント版スイッチを買ったのに、後になってできないことが分かったというプレーヤーもいる。 

北京のファッションデザイナー、ゼン・ドゥアンシャンさんは今年、2100元(297ドル)でテンセント版スイッチを買ったが、「あつ森」で遊べないので売るつもりだという。 

最高4000元(約6万円)で売られている日本版スイッチもあるが、テンセント版は電子商取引プラットフォームでその半額ほどで売られており、転売価格は新品同様でもさらに安い。 

<抗議の島> 

香港の活動家、黄さんは今年4月、「あつ森」に作った自身の「島」に「香港を解放せよ。今こそ革命だ」という文字を掲げた写真をツイッターに投稿。その直後、中国のオンライン闇市場から「あつ森」のソフトや関連商品が姿を消した。 

隠語を暗号を使ってゲームを探さざるを得ない事態に、アバターの着せ替えや植物栽培といった非政治的な遊びをしたいだけのほとんどのファンは、不満を募らせている。 

前出の家庭教師、シャオさんは「世界的に禁止されている非常に暴力的なゲームなら話は分かるが」とこぼす。 

黄さんの投稿に対抗し、「あつ森」の自分の島に、中国政府の方針である「一国二制度、一つの中国」というスローガンを掲げるプレーヤーもいる。

 写真はニンテンドースイッチで遊ぶ家庭教師のシャオさん。4月24日、北京で撮影(2020年 ロイター/Martin Pollard)

黄さんはその後、葬式を模した会場に習国家主席と世界保健機関(WHO)のテドロス事務局長の肖像写真を掲げ、「武漢肺炎」と書いた写真を自分の島でシェアした。