John Foley

[ニューヨーク 28日 ロイター BREAKINGVIEWS] – 米国の税制が、企業や富裕層に有利なことは誰の目にもはっきりしている。だから米紙ニューヨーク・タイムズ(NYT)が報じたように、トランプ大統領が15年間のうち10年間で連邦所得税を納めていなかったとしても驚くに当たらない。そうした制度にメスを入れるかどうかは、結局、有権者の判断次第だ。

トランプ氏の納税額がほんのわずかになったのは、損失や控除に複雑な仕組みが設けられた結果で、これによって現在、赤字の企業は将来の税負担が軽くなる。NYTはトランプ氏が別に狡猾(こうかつ)とも言われかねないような複数の節税方法を駆使したと示唆しているものの、実際に同氏は主に、アマゾンなどの法人や富裕層の「仲間たち」と同じように、納税負担を最小限に抑えるやり方を用いている。

企業や金持ちに優しい税制の流れは、トランプ氏以前から続いている。1950年代に50%を超えていた法人税率は、今や21%に低下。ロナルド・レーガン氏が大統領選に勝利した1980年に70%だった所得税の最高税率は、37%にまで引き下げられた。

多額の献金をする富裕層の言い分に関し、政治家が聞き入れているのはもちろんだが、これには米国流資本主義の信条も反映されている。つまり、お金というものは政府よりも、雇用創出の担い手や起業家の手元にある方が、有効に使われるという考え方だ。

一方で幾つかの抜け穴は、決してふさがれない。例えば、プライベート・エクイティ(PE)やヘッジファンドマネジャーなどが成功報酬として受け取る「キャリードインタレスト」の扱いが挙げられる。現状では、キャリードインタレストに課せられるのは、高額所得者向けの所得税率よりも、ずっと低いキャピタルゲイン税だ。

当初は石油・ガス企業の支援を目的に導入されたこの優遇制度について、米議会は過去何十年間も廃止が議論されてきたが、結局、何が何でも廃止を実現して「不公平税制」改革のシンボルにしようという意思がないことが、全てを物語っている。

野党・民主党候補のバイデン前副大統領は、富裕層への幅広い課税キャリードインタレスト優遇制度の廃止明確に約束していない。ただ、所得税の最高税率をほぼ40%まで戻し、相続税の課税を強化し、法人税率を引き上げると提案した。

問題は、当選した年の所得税が750ドルと笑うしかないような金額だったことが、果たして今回の大統領選にとって、真の争点になり得るかどうかだ。そして、恐らくはならないだろう。最近のピュー・リサーチ・センターの調査によれば、有権者の79%は経済こそが非常に重要な争点だとみている。

だが、特に税制は言うまでもなく、所得格差を問題視したのは半数以下にとどまった。米国民は主として増税される場合、自分の納税額を大いに気にするが、他人の納税額がいくらになるかに関しては、それほど留意しないのは間違いない。

●背景となるニュース

*トランプ米大統領が2016年と17年に納めた所得税は、それぞれ750ドルにとどまった。事業で巨額の損失が生じたためだ。米紙ニューヨーク・タイムズ(NYT)が27日、納税申告書のデータを引用して報じた。

*NYTによると、トランプ氏は2017年までの15年間のうち10年間は所得税を払いっていなかったが、自身が司会を務めていたリアリティ番組などで18年までに4億2700億ドルを稼いでいた。同氏はこの報道を「偽ニュースだ」と否定した。

*トランプ氏は以前、自らの納税額を最小限に抑えたいと発言しており、16年の討論会では減価償却を賞賛。連邦所得税を納めないことで「私は賢くなる」とも語っていた。

(筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)