陰謀論者集団「Qアノン」は、もはや米国だけの現象ではない。

  ソーシャルメディア分析会社グラフィカの調査によると、日本国内のQアノンのコミュニティーは独特の用語や行動様式、インフルエンサーを持ち、国際的に最も発達した支部の1つとなっている。トランプ大統領の側近だったマイケル・フリン元米大統領補佐官(国家安全保障問題担当)を崇拝する動きも目立つという。

  グラフィカの分析責任者メラニー・スミス氏は「今われわれが目にしているのは、米国発のQアノンの現地版が欧州諸国に根付きつつあるということだ。一方で日本とブラジルでは、イデオロギーとしてやや独立し、自立しているように見える」と述べた。Qアノンの存在感が強まっている背景には、米国の選挙と新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)があるという。

  Qアノンの国際的な広がりは、ソーシャルメディア企業にとって難題が待ち構えていることを意味する。偽情報対策で各国政府からすでに圧力を受けている各社は英語のみならず、無数にある多言語での対応を求められるからだ。

  日本のQアノンのコミュニティーも米国の本家と同様、トランプ大統領が民主党員や「ディープステート(闇の政府)」構成員を含む小児性愛者らの陰謀から世界を守るために闘っていると根拠なく信じている。公式会員がいないQアノンの信奉者数を推計するのは難しいが、グーグル・トレンドのデータからは、日本でのQアノンへの関心は3月下旬から4月上旬にかけて急上昇したことが示されている。

Source: Google Trends

  日本版Qアノンで特に目立つのは、フリン氏への畏敬の念だ。フリン氏も日本版Qアノンのツイッターアカウントを複数フォローしているが、その要となるのが岡林英里氏が運営する@okabaeri9111だ。Qアノンのコンテンツを日本語に翻訳する唯一の公式アカウントだとする同アカウントのフォロワーは8万人を超える。これに対し、グラフィカが8月のリポートで「よくフォローされている」と言及したブラジルのアカウント2つのフォロワー数は当時、それぞれ5万4400人と1万6800人だった。また、同リポートで取り上げられたフェイスブック上の英国のグループは1万-1万1000人規模だった。

  岡林氏は電子メールでのインタビューで、自身を日本の中規模都市出身の大卒だと説明。外国に住んだことはないが、英語は米国のテレビ番組を見て独学で学んだと語った。2019年1月にツイッターでアカウントを開始した数カ月後、「著名な複数のQアノンメンバーで構成するグループ」に参加するよう招待されフォロワーになったという。

  また「フリン氏はグループにいた」が、昨年6月ごろから参加しなくなったと証拠を示さずに述べた。フリン氏の弁護士、ロバート・ケルナー氏はコメントの要請に応じなかった。

  岡林氏は自身がQアノンに関心を持った一因に日本の女性や母性を巡る状況を挙げた。出生率の低さと人口減少は高齢化社会の日本に危機を引き起こすとエコノミストらは長年警告してきた。岡林氏は「出産適齢期の20代の女性が子供を産み育てることに集中できないようにさせている国は最終的に滅びると確信した」という。

  日本国内の陰謀論への確信も岡林氏は示唆した。例えば、首相を含む日本の政財界のエリートは日本人を搾取し、最終的に根絶やしにしようと企む外国人だという根拠のない主張などだ。

  日本の他のQアノン信奉者も、国内の問題を取り上げている。一部のアカウントは、菅義偉首相の初期の高い支持率はマスコミによって捏造(ねつぞう)されたものだと証拠なしに示唆している。

  Qアノン支持者らは、大ヒット映画「鬼滅の刃」にも言及している。鬼が人間を食べる設定などは、小児性愛と食人に関するQアノンの主張を人々に浸透させる狙いがあるというものだ。

  日本のQアノンの一部アカウントはすでに利用できなくなっているが、@okabaeri9111のような主要インフルエンサーは現在も積極的な情報共有を続けている。公安調査庁の広報担当はコメントを控えた。

  ツイッターとフェイスブックは、コンテンツに対する警告から特定の投稿の削除など、問題ある投稿の拡散防止に取り組んでいる。フェイスブックは「Qアノンのメッセージは非常に速く変化し、支持者のネットワークがあるメッセージで信奉者を増やしたかと思えば、すぐに別に移る」とした上で、自社のQアノン対策をまとめた公式文書に言及した。

  ツイッターの広報担当者は「当社には複数の異なる言語で世界を毎日24時間カバーする強力な専門家チームがあり、一段と複雑化する問題への対応能力を高めている」と述べた。

  Qアノンの世界的な広がりは、新型コロナウイルスが実用化されても接種する人が減るなどの結果を現実の世界にもたらしかねないと話すのは戦略対話研究所(ロンドン)のデジタル政策・戦略担当責任者、クロエ・コリバー氏だ。公衆衛生上の助言をより多くの人が「何らかの邪悪な陰謀」と捉えるためで、「幅広く言えば、Qアノンと陰謀論の拡散にはどんな文脈であれ、国や国際的な機関への信頼を失わせるリスクがある」と同氏は指摘した。

原題:QAnon’s Rise in Japan Shows Conspiracy Theory’s Global Spread(抜粋)