記者会見に応じたWHOの専門家、ピーター・ベン・エンバレク氏(9日、湖北省武漢市)

【武漢=渡辺伸、上海=張勇祥】新型コロナウイルスの発生源を調べるため中国の湖北省武漢市に派遣された世界保健機関(WHO)の調査団は9日記者会見を開き、ウイルスの起源の解明に向けて「さらなる研究が必要で、今後も継続していく」と述べた。ウイルスが人間に感染した経路として4つの仮説をあげたが、研究所からウイルスが流出した疑惑には「可能性は低い」と述べた。

記者会見でWHO側リーダーの研究者、ピーター・ベン・エンバレク氏はウイルスの感染経路として①動物から直接人間に感染②中間宿主を経由③冷凍食品などの食品流通網を経由④研究所での事故――の4つの仮説をあげた。最も可能性が高いのは中間宿主経由だが、食品流通や直接感染もありうるという。

エンバレク氏は「実験室での事故による流出の可能性はきわめて低い。今後はこの方向の調査はしない」と語った。トランプ前米政権は中国科学院武漢ウイルス研究所から新型コロナウイルスが流出したと主張してきたが、この可能性を否定した形だ。

会見には中国側も出席した。中国側のリーダーを務めた梁万年氏は「2019年12月以前に武漢市で感染が広がった証拠はない」と説明した。

調査団は欧米やアジアの専門家ら10人程度で構成、1月14日に武漢市に入り、隔離期間を経て同29日から本格的に調査を始めた。重点調査対象は主に2カ所で、最初に集団感染が発覚した華南海鮮卸売市場は同31日に視察した。2月3日には武漢ウイルス研を訪れ、著名研究者の石正麗(シー・ジェンリー)氏とも協議した。10日に武漢市を出発し帰国する予定だ。

もともとウイルス起源の調査には長期間かかるとの指摘が多い。ロイター通信によると調査団のオーストラリアの専門家、ドミニク・ドワイヤー氏は「調査内容やデータを評価するには数年間かかるだろう」と述べた。

もともとウイルス起源の結果判明には長期間が必要との指摘が多い。ロイター通信によると、一員であるオーストラリアの専門家、ドミニク・ドワイヤー氏は「調査内容やデータを評価するには数年間かかるだろう」と述べている。

調査団は中国共産党がコロナ封じ込めの「成功」を誇示するために開いた展覧会も訪れた。調査日程は中国側の主導で組まれているとみられていたが、米専門家のピーター・ダザック氏はAP通信に対し、調査団側は訪問したい場所のリストを中国側に渡したといい「我々が要求したすべての場所を訪れ、すべての人に会えた」(ダザック氏)という。

中国政府は感染拡大初期で「初動の遅れ」などを批判する言論を弾圧してきた。武漢市でコロナに感染して父を亡くした男性、張海さんは感染が広がった実態を知ってもらおうとWHOとの面会を求めていたが、中国当局に認められなかった。張さんは日本経済新聞に「今回の調査は独立性がなく、信頼性が低い」と語った。

中国政府には世界的な流行の責任追及を避けたいとの意図がうかがえる。「中国で最初に感染が見つかったからといって、発生源とは限らない」と中国外務省は一貫して主張してきた。

WHOによる武漢市での本格的な調査は今回が初めて。20年2月の流行初期にもWHO調査団は武漢を訪れたが、海鮮市場や研究所は調査できなかった。