時々ニュースを見ながら途方に暮れることがある。意味がわからないのだ。登場人物に対する実感もない。だが、そのニュースはどうやら市場経済に多大な影響をもたらす可能性がありそうだ。過去に何回も同じようなニュースがあった。リーマンショクックもその一つ。プライムローンとかサブプライムローンと言われても、当時、すぐにはピンとこなかった。だがそれは、時間の経過とともに金融市場に巣食っている途方もない害毒であることが判明する。世界経済はリーマンショックという前代未聞の大混乱に叩き落とされた。今回の記事がリーマンショックの再来の可能性があるかどうか、現時点ではよくわからない。注目された昨日は世界中のマーケットが平穏だった。目先、金融市場を揺るがすシステミックリスクは気にしなくても良さそうに見える。だが本当にそうなのだろうか。誰にもわからない。

問題の本質は何か。ブルームバーグ(BB)によると著名な投資ファンドの一つであるタイガーファンドで働いた経験のあるビル・フアン氏という人物が、デリバティブ取引を利用して巨大なポジションを築き上げた。その総額がいくらになるか分からない。だが、そのポジションが巨額の含み損を抱えてしまった。そこでこの取引に関与していた金融機関がマージンコール(追加証拠金の請求)を行なった。その中身はBBによると「200億ドル(約2兆2000億円)余り相当の株式処分を複数の金融機関から迫られた」というもの。この中には金融市場をリードするゴールドマン・サックス(GS)が含まれている。GSはブロック取引(相対で巨額の株売買を市場外で行うもの)でこの株を処分した。具体的な銘柄や価格は分からない。だが、マージンコールに伴う取引である。時価を大幅に下回っていたことは間違いない。そんな中で野村証券やモルガン・スタンレーが「大幅な損失を被る可能性がある」とプレスリリースした。

今回の事案の全容はまだ明らかになっていない。はっきりしているのは、情報開示が義務付けられていない取引が突然破綻したということだ。この取引は中身が公開されているわけではない。言ってみれば闇取引だ。いや、実態は博打と言った方がいいかもしれない。その取引に関わる金融業者にファン氏は莫大な手数料を支払っていた。並み居る金融機関がそこに群がったのである。おまけにファン氏は、BBによると、過去にインサイダー取引で有罪を認めた経歴のある人物だそうだ。なにをか言わんやだ。世情では世界有数の金融機関とブランディングされるゴールドマンやモルガン、野村証券が、金融市場に巣食った博打場に群がっていたのだ。この構図を冷静に眺めれば、一連の取引は市場経済のアキレス腱というよりも恥部そのものだ。見かけは一流でも恥を知らない金融業者には鉄槌を下すべきだろう。