前日に続いて今日もアルケゴス問題。貧富の格差拡大とこの問題がどう絡んでいるのか、ここが個人的な関心事。そんなことから関連する記事を読んでいるのだが、そんな中で意外な事実、いや、当然と言えば当然なのだが、彼我の実力差に気付かされた。ビル・ファン氏が個人財産を管理するファミリーオフィスの形態で、主にデリバティブを使って巨額のポジションを作り上げた。そのポジションが運用の失敗で破綻。莫大な含み損を抱えたことからこの問題はスタートする。取引を仲介した金融機関とファン氏が事後対策を話し合ったが収拾できず、ゴールドマン・サックス(GS)がマージンコール(追加証拠金の要求)をかける。これをファン氏が拒否したため問題が表面化した。GSは間髪を入れずブロック取引(相対で巨額の株売買を市場外で行うもの)で担保株を処分した。

ブルームバーグ(BB)によるとファン氏が差し入れるべき追証はトータルで「200億ドル(約2兆2000億円)余り相当」に達すると言われている。このうちGSがブロック取引で処分した額がいくらあったのか分からない。だが、GSは瞬時の判断で損失額をかなり抑え込んだのだろう。この処分に遅れをとったのが野村証券やクレディース・スイス、東京三菱UFJ証券ということになる。日経新聞によるとGSは「105億ドル規模のブロックトレードをわずか1日で執行した」とある。さらに、「大型ブロックトレードは政府系ファンドや富裕層、財団など世界中の有力投資家を顧客にもつ同社ならではの取引といえる」と解説する。105億ドルといえばファン氏が抱えた追証の半分に相当する。野村証券などはここで大きな遅れをとった。その結果として「2200億円相当の損失の可能性がある」と発表せざるをえなかったのだろう。

JPモルガンのアナリストが30日付で発行したリポートによると、「クレディ・スイスと野村がなぜ現時点でポジションを全て解消できていないのか理解に苦しんでいる」と指摘している。ディールの見返りに受け入れている株式を瞬時に処分すれば、この件に絡んだ損失はかなり回収できたはずだ。そこが処分できないまま時間が経過、損失の最大値が2200億円まで膨らんだ。瞬時の決断とそれを実行するための顧客層に欠けた野村やクレディーは、指をくわえて損失の拡大を受け入れざるを得なかった。そこに彼我の“実力差”があったのではないか。魑魅魍魎が跋扈する世界の金融市場で、実力もないまま手数料に群がった金融機関。背伸びした結果が巨額損失という答えなのだろう。30日付のBBによると野村証券幹部はポジションの解消について「コメントを控えた」としている。半面、「金融庁の幹部は29日、損失発生の原因となった取引のポジションはまだ残っていると語っていた」とある。