新型コロナウイルスの起源をめぐって欧米メディアはここにきて、武漢ウイルス研究所からの漏洩説に傾き始めている。こうした動きを受けてバイデン大統領は5月26日、「明確な結論に近づくことができるよう、米情報機関に対し情報の収集・分析に関する取り組みを強化し、90日以内に報告するよう要請した」(ロイター)。それまで陰謀論として扱われてきた漏洩説がどうして主役に躍り出たのか、その経緯がよくわからなかった。その答えを知人が教えてくれた。6月4日付のニュイーズウィーク日本語版に、「『研究所流出説』を甦らせたネット調査団、新型コロナウイルスの始祖ウイルスを『発見』」とのタイトルで、起源説をめぐり関係者の動きが詳細に報告されている。前編、後編からなる長文のレポート。かいつまんで言えば海鮮市場を起源とする自然発生説に疑問を抱いた市民が、ネットで連携して真実を突き止めたという内容だ。

彼らの動きを追ってみよう。「この何カ月かの間に武漢の研究所からの流出を疑わせる状況証拠が次々に明るみに出て、無視できないほどに蓄積された。それらの証拠を探り当てたのは、ジャーナリストでもスパイでも科学者でもない。アマチュアの『探偵』たちだ。彼らの武器は好奇心、そして来る日も来る日もインターネット上の膨大な情報をかき分け、手掛かりを探す根気強さ。それだけだ」。なんということはない、好奇心にかられた一般市民がネットを使って必要に真実を追い求めたのだ。これに参加したのは「世界各地のアマチュア20数人」。独自に調査を行い、埋もれた文書を掘り起こし、断片的な情報をつなぎ合わせてきた。そして、「彼らがばらばらに発信した推理が1つ、また1つとツイッター上でつながり、やがてはまとまったストーリーが紡ぎ出されてきた」というのだ。

このリポートをまとめたジェイコブソン氏は、「それは言ってみればオープンソースの自由参加型ブレインストーミング」であり、「ネット調査と市民ジャーナリズムの要素が合体した、全く新しい調査方法である」と強調する。彼らは自分たちをDRASTIC(Decentralized Radical Autonomous Search Team Investing COVID-19=新型コロナウイルス感染症に関する分散型の急進的な匿名の調査チームの頭文字を取った略称だ)と名乗る。DRASTICが歴史の闇に葬られるはずの真実を抉り出したのである。ウォーターゲートスキャンダルに勝るとも劣らない迫力だ。この調査の前では商業ジャーナリズムが小手先で飾り立てているファクトチェックなど足元にも及ばない。だがまだ武漢研究所起源説が確定したわけではない。武漢研究所には米国も深く関わっている。誰が嘘を煽動したのか、全体の構造が知りたい。