昨年の株主総会をめぐる東芝の疑惑を調査した報告書が10日に発表された。東芝が水面下で密かにおこなっていた企業統治(コーポレートガバナンス)の乱脈ぶりが世間に曝け出された。正直な印象を言えば謝って済む類の話ではない。「こりゃもう犯罪だ」と叫びたくなるほど、車谷暢昭前社長時代の企業統治は異常だ。指名委員会の責任は言うに及ばず、強調したいのは経済産業省と一体となった株主議決権の圧殺だ。欧米が主導する企業統治に追いつこうとする国内関係者の努力に水を差すだけではない。従業員や取引先、個人投資家や機関投資家など企業を取り巻くステークホルダーを無視して、ひたすら社長一人の権益(経営者の利益)を擁護しようとする企業統治。その歪んだ実態が明らかになった。

これはいまでも企業社会の一部に根付いている悪習だ。カビ臭くて古臭い。このままでは、とてもじゃないが世界と戦えない。報告書を受けて東芝は昨日、臨時の取締役会を開催、25日の株主総会で諮る取締役選任者を一部変更した。社外取締役候補だった太田順司監査委員会委員長(元新日本製鉄常務)、山内卓監査委員会委員(元三井物産副社長)の2人が退任する。このほかに執行役員も2人退任する。論議を呼びそうなのが取締役会議長であり指名委員会委員長を兼務する永山治氏(中外製薬名誉会長)を留任させたこと。議長であり指名委員会委員長という重責を担う永山氏になんの責任もないのだろうか。これでは社外取締役制度そのものの鼎の軽重が問われるのではないか。企業経営者の多くはいまでも、コーポレートガバナンスを軽視している。そんな風潮を断ち切るためにも永山氏の退任は避けられないだろう。

経産省の責任も重い。120ページを超える報告書にざっと目を通しながらアベノマスクが頭を過った。安倍前首相の側近と言われた経産官僚の独善的判断が大きな混乱を招いた。東芝問題では経産官僚が大株主に議決権を行使しないよう圧力をかけたと言われる。報告書は「結語」で「アクティビスト対応について経産省に支援を要請し、経産省商務情報政策局ルートと緊密に連携し、不当な影響を一部株主に与え、一体となって株主対応を協同して行なった」と結論づけている。安倍のマスクは世の中の実態と乖離していると非難された。東芝問題で経産省は世界の実態から乖離した行動を平気で行なっていた。経産省もまたカビ臭く古臭い。来年4月東証の市場改革が実施され、コーポレートガバナンスを強化したプライマリー市場が創設される。だが、このままでは新市場に魂は入らないだろう。日本の企業統治は欧米では通用しない。