• HSBCやMUFG、ANZは新規採用や社内異動で人材確保目指す
  • 顧客は人材の層の薄さを理解、カネを惜しまないとエゴンゼンダー

サステナブルファイナンスを担う人材需要が世界的に高まっているが、経済大国や二酸化炭素(CO2)排出が激しい国・地域を抱えるアジアほど、それが重要性を帯びる場所はないだろう。

  HSBCホールディングスやオーストラリア・ニュージーランド銀行(ANZ)、三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)などの金融機関は新規採用や社内異動での確保を目指している。

  中国工商銀行(ICBC)は法人融資・世界市場・調査部門全体にわたる環境・社会・ガバナンス(ESG)の推進に向けグリーン金融委員会を設置した。同行は中国の銀行の中で最も多くのグリーンローンを手掛けている。

  ただ、必要な専門知識を備えた人材プールはもともと小さい。日本など一部市場では、候補者に他分野の2倍の報酬が提示されることもあり得る。

  中国やインドネシアなども大気汚染や所得格差を含む問題に対応するため、ESG関連措置を当局が強化している。こうした動きも、欧米よりも比較的始まりが遅かったアジアでESG投資への注目を集める方向に働いている。ESG投資の大きな部分を占めるクレジット市場は今年、アジアでの伸びが他の地域を上回っており、人材の必要性に拍車を掛けている。

  人材コンサルティング会社エゴンゼンダーの金融サービス担当コンサルタント、アーサー・リョン氏(香港在勤)は「特に官民両セクターでESG関連の経験と実績を兼ね備えた候補者を見つける上で、人材プールの層が極めて薄いことを採用する企業側は理解している」と指摘。「企業は人材の希少性を理解し、大半はそうした人材にカネを惜しまない」と述べた。

  さらに、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)で格差や健康の問題が前面に出たことで、ソーシャルボンド(社会貢献債)の起債が大きく伸びた。アジアでの採用活動の活発化は世界の他の地域で起きていることの延長線上にある。ウォール街では元当局者が採用されたり、履歴書にグリーンファイナンスの経験があれば極めて望ましいようだ。

  ESG債の引き受け金融機関でアジア最大手の一つであるHSBCは、シンガポールや香港、中国本土、マレーシア、オーストラリア、インド、インドネシアなどの主要市場でサステナブルファイナンスのチーム強化を計画。三井住友トラスト・ホールディングスは物理学や化学で博士号を持つ人材を採用した。

  人材コンサルティング会社コトラによれば、日本でESG関連の経験を備えた人材の採用に動いているのは金融機関だけではない。格付け会社やコンサルティング会社、製造業者もそうだという。

  同社シニアコンサルタントの宮崎達哉氏によれば、新たなESG関連プロジェクトやチームを設立・統括する責任者の年収(ボーナス除く)は最大2000万円に上る可能性がある。CSR(企業の社会的責任)など、直接のESGではないポストの年収が1000万円未満にとどまるのとは対照的だ。

  オーストラリア2位の銀行、ウエストパック銀行は今年、人権関連を担当する弁護士1人を雇い入れた。ナショナルオーストラリア銀行(NAB)はメルボルン大学の経営大学院と手を組み、自社のバンカーに気候変動リスク関連のトレーニングを施している。ANZは10月までに3人を新規採用する。サステナブルファイナンスチームを22人に増員するためで、同チームの陣容は19年時点で7人だった。 

  ESG関連の新たな仕事が増えたことで、特に女性に好機が生まれている。スタンダードチャータードは今年、大中華圏・北アジア担当サステナブルファイナンス責任者として、トレーシー・ウォン・ハリス氏を起用した。

  ロバート・ウォルターズ・ジャパンのアソシエート・ディレクター、鮫島冬樹氏によれば、特に外資系の日本法人では、女性の人材の需要はコンスタントにある。「女性でESGの経験があってバイリンガルならすぐ決まる」と思われるという。

  サステナブル関連人材の裾野を広げるため、シンガポールは20年後半にグリーンファイナンス調査・人材開発センターを開設した。オーバーシー・チャイニーズ銀行(OCBC)は過去2年間に少なくとも50のサステナビリティー関連ポストを増やし、社内外の人材を募ってきた。

  金融機関のこうした採用にもかかわらず、需要は根強い。アジアではESG専門家に対するニーズが依然として非常に強いとエゴンゼンダーのリョン氏は指摘した。

原題:Boom in ESG Finance Creates One of Asia’s Hottest Job Markets(抜粋)