[ウダンディ(インド)/東京 29日 ロイター] – インド南東部タミルナードゥ州では、少なくとも30年にわたって州内に住む7000万人強に電気を届けるための大型石炭火力発電所「ウダンディ・プラント」の建設が進められている。

米国の非営利団体グローバル・エナジー・モニター(GEM)のデータに基づくと、アジア地域で建設中の石炭火力発電所は200カ所に迫り、このウダンディ・プラントを含めてインドで28カ所、中国は95カ所、インドネシアは23カ所だ。

これらの新たな石炭火力発電所は向こう何十年も温室効果ガスを排出し続けることになる。これは、10月31日からの国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)で世界の指導者たちが目標としている電力源としての「脱石炭」がいかに難しいかを物語っている。

石炭使用は、気候変動対応を巡って先進工業国と途上国の間で意見が対立するさまざまな問題の1つだ。多くの先進工業国は何年も前から温室効果ガス排出量削減のために石炭火力発電所の閉鎖に乗り出しており、米国だけでも2000年以降で301カ所が操業をやめた。

しかし世界の人口の60%、同工業生産の半分前後を占めるアジアにおいて、石炭使用は減るどころかむしろ増えつつある。急速に発展する各国が電力需要を満たそうとしているからだ。GEMのデータからは、世界全体で建設中の石炭火力発電所195カ所のうち、90%がアジアに集中していることが分かる。

タミルナードゥ州はインド全州で2番目の工業生産を誇り、再生可能エネルギー生産もトップクラスだが、石炭火力発電所の建設件数も最も多い。州発電・配電公社のある幹部は「太陽光と風力だけに頼ることはできない。あくまで主体は石炭で、付随的な部分として太陽光がある」と説明した。

<なお強い石炭依存>

世界全体を見渡しても、再生可能エネルギー生産がいくら劇的に増えたとはいえ、経済は引き続き石炭火力発電にどっぷり漬かっている。アジアの電源構成における石炭火力の比率は世界平均の2倍で、特に経済が台頭するインドなどで高いのが現状だ。

BPの世界エネルギー統計レビューによると、昨年の世界の電力の35%強が石炭火力、約25%が天然ガス火力、16%が水力、10%が原子力、12%が太陽光と風力だった。今年に入ると石炭の需要が過去最高に達し、価格は最高値を更新。新型コロナウイルスのパンデミックによってエネルギー需要全般が減退したため昨年減少した温室効果ガスの排出量が再び急速に増大しようとしている。

新規建設される石炭火力発電所の一部は、より旧式で環境汚染をもたらす施設を代替する形になるものの、差し引きで考えると温室効果ガス排出量はやはり増えてしまう。

センター・フォー・リサーチ・オン・エナジー・アンド・クリアエアーの首席アナリスト、ローリ・ミリバータ氏は「これらの国で既に建設中の(石炭火力発電所が)フル稼働すれば、石炭需要と排出量を押し上げる」と懸念する。

GEMの分析では、新規建設分の石炭火力発電所だけで30年の稼働期間中に二酸化炭素(CO2)を280億トン近く排出する見込み。これはBPが試算した昨年の世界全体で全てのソースから排出されたCO2の320億トンとそれほど差がない。

そうした中でインド環境省のグプタ次官は最近、ロイターのインタビューで、同国はカーボンフットプリント(CFP、製品やサービスの原材料調達から廃棄・リサイクルに至るまでの温室効果ガス排出量をCO2換算したもの)削減目標を達成する道筋にあり、石炭使用も減っているが、脱石炭化は不可能だと述べた。

グプタ氏は「どの国も強みを持っている。われわれには石炭があり、それに頼っている。いったんカーボンインテンシティ(二酸化炭素排出原単位)を減らす目標を打ち立てればそれは効果を発揮するので、石炭ないし他の分野で実行するかどうかは任せてくれというのがわれわれの立場だ」と語った。

インド石炭省元次官も「再生可能エネルギーの拡大は重要だ。しかし石炭は少なくともあと15年、インドの主要エネルギー源であり続け、われわれのエネルギー需要に対応するため生産増強が必要だ」と訴えた。

<中国の電力危機>

GEMのデータを見ると、インドで現在稼働中の石炭火力発電所は281カ所、建設中が28カ所、計画段階が23カ所となっている。

もっともこれらの数字さえ、石炭の算出と消費、温室効果ガス排出量がいずれも世界最大の中国の前ではかすんでしまう。中国で稼働している石炭火力発電所は1000カ所以上、計画段階か既に建設中なのは約240カ所に達する。

中国の石炭火力発電所が稼働期間を通じて排出するCO2は1700億トンと、世界全体の2016-20年までの排出量より多いことが、BPのデータで確認できる。

また中国は世界最大の再生可能エネルギー生産能力があるにもかかわらず、今は大幅な電力不足に見舞われ、石炭企業に増産を促しているところだ。このため26年以降に石炭使用を減らす計画を掲げていても、目先は石炭消費が拡大する公算が大きい。

また、中国が使用を減らしたとしても、世界全体の石炭消費は増える見通しだ。南アジアと東南アジアで建設中のプロジェクトを通じて、石炭火力発電能力がそれぞれ17%と26%上向くのが主な要因だ。

<強気のオーストラリア>

温室効果ガス排出量の削減を約束している国の間でも、石炭は依然として確固とした存在感を持っている。

東日本大震災に伴う事故以来、国内の原子力産業がずっと窮地に立たされている日本の場合、電力供給の穴を埋めるため石炭に頼り、7カ所の大型石炭火力発電所を建設中。東京電力ホールディングスと中部電力が出資する国内最大の発電会社JERA(ジェラ)は、石炭とともに、CO2を排出しないアンモニアを燃やすことで50年までの排出量実質ゼロ達成と、従来の発電所の稼働期間延長につなげたい考えだ。

トヨタ自動車などに電力を供給するジェラの愛知・碧南火力発電所が利用しているのはオーストラリアを筆頭とする海外から輸入した石炭。そのオーストラリアは石炭が主要な輸出産業であり、野心的な排出量削減を求める他の先進国と論争を繰り広げている。

オーストラリアのピット天然資源相は、石炭はこの先何十年も必要とされると主張し、銀行や他国の規制当局、投資家などの圧力に屈して国内石炭産業をつぶすつもりはないと断言。「市場が存在する限り、オーストラリアはそこに供給していく」と述べた。