[東京 22日 ロイター] – 日銀の黒田東彦総裁は22日、金融政策決定会合後の記者会見で、日本経済は新型コロナウイルス感染症の影響から回復途上にあり、賃金上昇を伴う形で物価目標の達成を実現するため、金融緩和を継続することが適当だと述べた。当面は金利を引き上げることも、金融政策の先行き指針(フォワードガイダンス)を変更することも必要ないと強調し、フォワードガイダンスの変更は2―3年はないと踏み込んだ。 

総裁会見中も外為市場では円安が進行。会見後、政府・日銀は円買い介入に踏み切った。

<フォワードガイダンス変更、「2―3年ない」>

黒田総裁は金融緩和を続けると強調する中で「当面、金利を引き上げるというようなことはないと言っていいと思う」と言明した。10年金利の許容変動幅拡大も「変動幅を拡大すると金融緩和の効果が阻害されてしまって政策目的は実現できない」として、消極的な姿勢を示した。

フォワードガイダンスは、経済の回復を支援し、2%の物価目標を賃金の上昇とともに実現する観点から「当面、変更が必要とは考えていない」と述べた。さらに「当面必要ない」というのは「数カ月の話ではなく2―3年の話」だと語った。

黒田総裁は、今年度の物価上昇率は7月の展望リポートで示した2.3%を上回る可能性が十分にあるものの「来年度以降、物価上昇率は今年度よりも下がって2%を割るのは確実」と話し、「経済・物価情勢に合わせて微調整はあるかもしれないが、基本的なフォワードガイダンスの変更は金融緩和政策を修正していく時点で考えられることではないか」と語った。

<日米金利差ばかりに焦点当てられる相場展開に苦言>

黒田総裁はこのところの円安進行について、米国のインフレ見通しの上振れや急速な利上げによる米景気下押しといった、本来であればドル安につながる要因があるにもかかわらず、日米金利差拡大ばかりに焦点が当たっている現状に苦言を呈した。「一方的な動きであり、投機的な要因も影響しているのではないか」と語った。

一方で、政府から円安是正に向けた政策対応を求められる可能性については「予想もしていない」と述べた。

政府・日銀が円買い介入を実施した場合、円資金が市場から吸収されて短期金利に上昇圧力が掛かるとみられている。黒田総裁は「YCC(イールドカーブ・コントロール)を実施している以上、金利が上昇しても現在の金融政策の中で自動的に円資金の引き締まりは解消されてしまう」と述べた。

円安の影響について、グローバル企業には収益を押し上げ要因となる一方、非製造業や中小企業にはマイナスの影響が大きくなると指摘。さらに、輸入物価の上昇とその価格転嫁を通じて消費者物価を押し上げ、個人消費を下押しする要因になるとの認識を示した。

企業の事業計画策定を困難にするなど先行きの不確実性を高め、日本経済にとってマイナスだとも語った。経済全体として所得から支出への前向きの循環が強まっていくためには、円安によって収益の改善した企業が設備投資を増加させたり、賃金を引き上げたりすることが必要だと語った。

<金額無制限の共通担保オペで資金繰り支援>

日銀は22日の金融政策決定会合で、新型コロナ対応特別オペを段階的に終了し、金額無制限の共通担保資金供給オペを実施することを決めた。

黒田総裁は、新型コロナウイルス感染症が中小企業の資金繰りに与える影響は改善方向にあることから、急性の危機対応を段階的に後退させつつ、幅広い資金繰りニーズへの対応に軸足を移していくと説明。「企業等にとって緩和的な金融環境を引き続きしっかりと維持していく」とした。

(和田崇彦、杉山健太郎 編集:青山敦子)

約24年ぶり円買い介入、「過度な変動見過ごせず」と鈴木財務相<ロイター日本語版>2022年9月22日7:09 午後

[東京 22日 ロイター] – 政府・日銀は22日、急速な円安を抑止するため為替介入を実施した。円買い・ドル売り介入は1998年6月以来、24年3カ月ぶり。鈴木俊一財務相は同日夕、神田真人財務官とともに記者会見し、「投機による過度な変動を見過ごすことはできない」と狙いを語った。日本単独で実施したか、他国と協調したかは明言しなかった。

市場関係者の間では、介入した1ドル=145円超の水準が日本政府の防衛ラインとして意識される一方、効果は長く続かないとの声が出ている。

<140円台後半まで急騰>

日銀が同日の金融政策決定会合で現行の金融政策を維持すると決定し、円相場は一時145円台後半まで急落していた。鈴木財務相は「投機的な動きも背景に急速で一方的な動きが見られる」とし、政府として「こうした過度な変動を憂慮している」と強調した。

鈴木財務相は「為替相場は市場で決定されるのが原則だが、投機による過度な変動が繰り返されることは見過ごすことができない。このような考え方から為替介入を実施した」と省内で記者団に語った。引き続き為替市場の動向を「高い緊張感をもって注視するとともに、過度の変動に対しては必要な対応を取りたい」とも述べた。

市場関係者によると、介入後に円は一時1ドル=140円台後半まで急騰した。鈴木財務相は「今の時点において、一定の効果が数字の上に表れている」との認識を示した。

市場関係者の多くは、今後145─150円がマーケット参加者の間で意識されると話す。一方で、円買い介入に使う外貨に限りがあり、効果は限定的とも指摘する。「円買い介入には外貨準備高という規模の限界がある」と、ニッセイ基礎研究所のシニアエコノミスト、上野剛志氏は語る。

「さらに外貨準備高の大半は米国債であり、介入のために米国債を売れば、米金利が上昇し、ドル高・円安要因になってしまいかねない」と言う。

<米国との関係>

財務省によると、円買い介入は98年6月以降は行われていなかった。

同日夕の介入実施後、鈴木財務相は急きょ財務省に戻り、記者会見に応じた。鈴木財務相は「きょうこうした激しい動きがあり、その間、神田財務官と連絡を密にとっていた」とし、神田財務官との間で「断固とした措置を取る必要がある」との認識を共有したという。

米国を含む主要7カ国(G7)とは「連絡を常に取り合っている」としたが、反応については「コメントを控える」とした。協調介入だったかどうかも明言を避けた。

今回は介入した事実を公表したが「為替介入はやったかやらないか言わないこともある」とし、「介入規模については申し上げない」とした。

今後の対応について財務相は「為替介入は機微なものと思う。何円になったからやるとか(の市場の思惑)につながってはいけない」との認識を示した。神田財務官も「数字のことを考えたことはまったくない」と、一定の為替水準に対する思惑を打ち消した。

神田財務官は介入について「あまりにおかしいボラティリティーに対し、正常化することが求められる」と説明。「祝日などを意識したことはない」とも語った。毎月末に公表される介入実績を念頭に「数字が積み上がっているかもしれないし、そうではないかもしれない」との考えも述べた。

米当局との関係では「いろんなことで同盟国として議論している。良い意思疎通はできている」と語った。

アシメトリックアドバイザーズのアナリスト、アミール・アンバーザデ氏は「これで日本は2正面で戦うことになった。日銀は長期金利の上昇を抑えるために戦い、財務省は日銀の政策ミスの影響を相殺するために為替介入する」と指摘。「いずれも成功しないだろうと我々は見ている。日銀の国債購入と同様、市場が為替介入に鈍感になるにつれ、145円台が再び試されることになるだろう」と話す。