[27日 ロイター] – 米ツイッターを440億ドルで買収するのは簡単なことだった。しかし、実業家イーロン・マスク氏がなぜツイッターにその10倍の価値があると信じているのかを証明し、ソーシャルメディアプラットフォームを変革するのは容易ではない

同氏は今月、「私自身や他の投資家は明らかに今のツイッターに過剰にお金を払っている。私の考えでは、ツイッターの長期的な潜在力はその現在の価値よりも桁違いに大きい」と語った。

ツイッターの現社員と元社員、アナリストらが見込むマスク氏の今後の対応は以下の通り。

<スーパーアプリ「X」>

マスク氏は今月、ツイッター買収によって「エブリシングアプリ『X』の開発が加速する」とツイート。スーパーアプリとも呼ばれるエブリシングアプリのアイデアは、中国の対話アプリ「微信(ウィーチャット)」のようにアジア発祥で、ユーザーはメッセージを送るだけでなく、支払いやオンラインショッピング、タクシーの呼び出しもできるオールインワンサービスだ。

ただ、米国でスーパーアプリが存在しないのは、障壁が高く、アプリの選択肢が豊富だからだと、テック系ポッドキャストPivotの共同ホストで、ニューヨーク大学でマーケティングを教えるスコット・ギャロウェイ氏は言う。

同氏によると、iPhoneとAndroid端末のアプリストアを支配しているアップルとアルファベット傘下のグーグルは、自らをスーパーアプリと見なしており、他のスーパーアプリの開発を許そうとはしないだろう。

<投稿監視業務縮小>

現社員や元社員によると、全てのソーシャルメディアプラットフォームに共通するガードレールを引き下げるマスク氏の計画は、ツイッターに憎悪にまみれた有害かつ潜在的な違法コンテンツが殺到することにつながりかねない。ツイッターはすでに、児童ポルノの特定と削除に苦慮している。

従業員が恐れているのは、コンテンツモデレーション(投稿監視業務)に従事するモデレーターを含むツイッターの信頼性・安全性チームメンバーが、マスク氏の最も大きな人員削減分野に含まれることだ。

<広告主離れの回避>

2019年、マスク氏は「広告が嫌いだ」とツイートした。

買収完了の前夜、同氏は公開書簡のようなツイートで広告主にこう直訴。「ツイッターは間違いなく、結果が伴わずに何でも言えるような、自由気ままな地獄絵図にはなり得ない!...。ツイッターはあなたのブランドを強化し、あなたの企業を成長させる世界で最も尊敬される広告プラットフォームであることを熱望している」。

広告主はそれを信じていない。ツイッターにお金を使うための大きな障害として、トランプ前米大統領のアカウントを復活させるというマスク氏の計画に言及している。

業界関係者は、トランプ氏を再び迎え入れれば穏健派やリベラル派のユーザーを遠ざけ、政治スタンスを超えて人々にアピールすることを目指す大手家庭用ブランドに敬遠される可能性がある。

<規制順守>

マスク氏はあらゆる種類の言論の自由を守ることを約束したが、巨大テックの抑制を目指す世界の指導者らに融和的な姿勢を示している。

5月にはツイッター動画で、欧州連合(EU)の新たなデジタルメディア規制に賛同。この規制により、巨大テックは違法コンテンツ対策を強化しなければ、世界全体の売上高の最大6%に相当する罰金を科されることになる。

アジア諸国の規制当局もソーシャルメディアプラットフォームに対する法的姿勢を強化しており、反体制派による言論を含む、政府が違法と見なすコンテンツの削除を命じている。

元ツイッター取締役のジェイソン・ゴールドマン氏によると、インドではオンライン上の言論の自由を守るためにツイッターは政府と「洗練された闘い」を繰り広げており、マスク氏が関わればこの争いがリスクにさらされかねない。

また、マスク氏が最高経営責任者(CEO)を務める電気自動車メーカーのテスラを巡っては、昨年140億ドルを売り上げた中国での事業拡大がツイッターを危険にさらす可能性があるという。

ゴールドマン氏は「マスク氏が中国政府と連絡を取り合い、ユーザーの情報を引き渡す可能性を考えると非常に恐ろしい」と指摘する。