[東京 18日 ロイター] – 日銀の黒田東彦総裁は18日、金融政策決定会合後の会見で、イールドカーブ・コントロール(YCC)政策は持続可能だと述べ、長期金利の変動幅をさらに拡大することに否定的な見解を示した。拡充を決めた共通担保オペも活用してイールドカーブの適正化を図ると説明したが、担保となる国債は品薄状態で、政策修正観測も根強い。市場では共通担保オペについて、金利低下要因になるとみる向きがある一方、期待薄との声も出ている。 

<会合前の市場動揺、「特別な問題ない」>

日銀は17―18日に開いた決定会合で金融政策の現状維持を決め、現在ゼロ%程度に誘導している長期金利の許容変動幅もプラスマイナス0.5%程度で据え置いた。

前回12月の会合で唐突に政策を修正したことから、海外投資家を中心に今回会合での追加政策修正の思惑がくすぶっていた。黒田総裁は決定会合前に市場が変動することは「特別な問題があるとは考えていない」とし、金融市場当局と市場が同じ見方でなければならないということはないと語った。

その上で、昨年12月の政策見直しからそれほど時間が経っておらず、市場機能への影響を評価したり、新たな金利が定着したりするには時間が必要とした。

黒田総裁は、コロナ禍からの回復途上であることや、海外の経済・物価情勢などを踏まえると日本経済を巡る不確実性はきわめて大きい状況だと語った。現在は経済をしっかり支え、企業が賃上げできる環境を整えることが重要だとの認識を示した。

新たな「経済・物価情勢の展望」(展望リポート)で示された物価見通しでは、予測最終年度となる2024年度について、生鮮食品を除くベース、生鮮食品とエネルギーを除くベースでいずれも2%には届かなかった。黒田総裁は2%物価目標の安定的・持続的な達成を見通せる状況にはなく、金融緩和政策の継続が政策委員の一致した意見だと強調した。

大和証券の岩下真理チーフマーケットエコノミストは、黒田総裁の任期中は政策修正はないと予想。野村総合研究所のエグゼクティブ・エコノミスト、木内登英氏も、マイナス金利政策とYCCの修正は新総裁の下でないと実現しないと見込む。

<適正なイールドカーブへ、共通担保オペを活用>

足元で国債の購入ペースが膨らんでいることを踏まえ、YCC政策の持続性を疑問視する声があることについて黒田総裁は、今後機動的な政策運営によって市場機能が改善していく見通しであり「YCCは十分存続、持続可能だ」と述べた。

黒田総裁は決定会合で決めた共通担保オペの拡充も活用しながら機動的に市場調節を行っていく方針であり、「長期金利の変動幅をさらに拡大する必要があるとは考えていない」と語った。

共通担保オペは従来、短期の流動性供給で活用されてきた。しかし、昨年12月の決定会合後、マイナス金利撤廃観測から2年金利が2015年以来の高水準に急上昇したことを受け、今年初めから期間2年の共通担保オペが継続的に実施されてきた。

日銀では、共通担保オペが2年ゾーンを中心とする金利の低下に効果が出たとの声が上がっている。共通担保オペは国債の需給に影響を与えず、「国債の買い入れで金利をコントロールするYCCの本道からはそれる」(アナリスト)との指摘もあるが、黒田総裁は、共通担保オペは「イールドカーブを適正にするための1つのツール」と指摘。オペの拡充は「YCCの限界を示しているものではない」と語った。

共通担保オペの金利入札方式の期間を10年に延長したことについては、金利上昇が目立っていた5年物スワップ金利の低下を促すなど、「日本国債にも間接的な金利低下効果が期待できる」(JPモルガン証券・山脇貴史債券調査部長)との見方がある。

ただ、日銀の国債買い入れの積極化で担保となる国債が品薄になっている現状や先行きの政策修正観測が残る状況下では、共通担保オペの拡充が「実際に効果があるかは疑問符が付く」(大和証券の岩下氏)との声も出ている。岩下氏は、オペ運営も新総裁のもとで仕切り直した方が良いと話す。

(和田崇彦、杉山健太郎 取材協力:伊賀大記、竹本能文 編集:石田仁志)