[広州/香港 7日 ロイター] – 中国の習近平国家主席は、国賓として中国に招いたフランスのマクロン大統領を異例なほどの好待遇でもてなした。米国に対抗しようとしている中国が、欧州連合(EU)内に重要な連携相手を確保するため外交攻勢を強めていることの表れだ、と複数の専門家はみている。 

習氏とマクロン氏は7日、中国有数の商業都市、広東省広州を訪れ、習氏の父親が省トップ時代に使っていた公邸で茶会を開いた。

訪中した外国の指導者を習氏がここまで親密に接待するのは極めて珍しい。複数の外交官は、習氏が中国に対する「全方位の封じ込めと抑圧」と呼ぶ米国の動きに反対する際に支持してくれる国を探す中で、EUの主要メンバーであるフランスとの関係を重視している姿勢が浮き彫りになったとの見方を示した。

米デンバー大学のチャオ・スイシェン教授(中国問題・外交政策)は「中国が積極的な外交を展開する裏には、全て米中関係が絡んでいる。だから特に中堅国やフランスのような大国への働きかけは、米国に対する何らかの反撃という意味合いがある」と指摘する。

ロジウム・グループのアナリスト、ノア・バーキン氏は、中国の主たる目的は欧州が米国とより緊密に足並みをそろえる行動をするのを防ぐことだと分析。「その意味で、マクロン氏は恐らく中国政府にとって欧州で最も大事なパートナーになる」と述べた。外交界でも、マクロン氏はEUの重要政策を主導する人物の1人との認識がおなじみになっている。

今回マクロン氏はEU欧州委員会のフォンデアライエン委員長とともに中国を訪れ、2人はいずれもウクライナ問題で習氏から従来の立場を軌道修正するという公的な言質を得ることはできなかったが、それでもマクロン氏は下にも置かない扱いを受けた。

一方、訪中前に中国を「抑圧的」と批判したフォンデアライエン氏は、空港での出迎えもおざなりで、習氏とマクロン氏向けに設定された幾つかの行事に招待されず、見方によっては独りぼっちで悄然としている印象を残すことになった。

中国共産党機関紙、人民日報系の環球時報は6日の論説記事で、「米国の戦略上の走狗であり続ければ行き詰まるということは誰の目にも明らかだ。中仏関係を中国と欧州の協力体制への架け橋とするのは、両国と世界のどちらにも有益だ」と主張した。

<米国の視点>

米政府内では、中国によるフランスとの外交関係強化の取り組みが本格化するかどうか疑わしい面があるとみられている。

ウクライナ問題が決着した後なら、中国は対米関係悪化の埋め合わせとして欧州との経済的な接近につながるような外交戦略の再編に動くだろうが、現時点ではその公算は乏しい、と米政府の考えに詳しい複数の関係者は話す。

同関係者らによると、ウクライナ問題について欧州が中国に関与することには米政府は静観姿勢を貫いている。

もっともロジウム・グループのバーキン氏は、マクロン氏は今回の訪中で大した成果は得られなかったようだとの見方を示した。

「マクロン氏はウクライナ戦争における習氏の姿勢を変えさせることができると信じていたようだ。彼は習氏にデカップリング非難、大規模なビジネス代表団の同伴、中国の戦略的独立性支持の再確認といった一連の贈り物をした。それに対する大きな見返りはほとんどなしだ」という。

中国は、台湾やウクライナといった地政学問題に加え、先端技術の取引などでも米国が敷いた包囲網を打ち破る機会を虎視眈々と狙っている。

その一環として今年の外交関連予算は12.2%増加。過去数週間でシンガポール、マレーシア、スペイン、日本から指導者や高官も相次ぎ招いてきた。

3月には長年の宿敵だったサウジアラビアとイラン両国の外交関係正常化をおぜん立てして世界を驚かせ、中東和平の立役者も演じられるとアピールした。

欧州関係では、今後EUのボレル外交安全保障上級代表とドイツのベーアボック外相が訪中予定で、中国側の外交攻勢は続きそうだ。

中国人民大学欧州研究センターのワン・イウェイ主任は「中国と欧州は、システミックな競争相手ではなく、依然としてパートナーになり得る」と話している。

(Michel Rose記者、James Pomfret記者)