[東京 31日 ロイター] – 東京大学大学院経済学研究科の渡辺努教授はロイターとのインタビューで、来年の春闘の帰すう次第で日銀が来年初めにも短期の政策金利を引き上げる可能性があると述べた。政府の経済財政諮問会議の特別セッションで委員を務める渡辺氏は、「労使の見方が変わってきたことがはっきり分かれば、利上げはあり得る」と話した。 

一方で渡辺教授は、今年機運が高まった賃上げの持続性に企業も労働組合も「半信半疑だ」と指摘。今年の中小企業の賃上げは予想よりも良かったが、原材料高で厳しい中で実現したこともあり、来年の賃上げは「さらに厳しいと中小企業は話している」と述べた。企業や労組の予見可能性を高めるため、政権が先々の最低賃金の目安を示すなどの対応が必要だとした。

渡辺教授は、4月の日銀決定会合の声明文に賃金上昇の文言が入ったことは「非常に画期的だった」と評価。様々な賃金指標のどれを重視するのか、正規・非正規のどこまでを考慮していくかなど、日銀が重視するポイントを追加で明文化すれば「予見可能性がさらに高まる」と話した。

日銀の植田和男総裁が前任の黒田東彦氏から引き継いだ長短金利操作(イールドカーブ・コントロール=YCC)については「早くやめた方がいい」と語り、短期金利引き上げの前に撤廃すべきとした。短期のマイナス金利と10年金利の「2点を抑えるのは無理があるというのが一番大きな教訓だ」とし、無担保コール翌日物金利のみ制御するやり方に戻すべきとの考えを示した。

一方で、「YCCを変えると翌日物金利も引き上げるニュアンスを生んでしまう」と話し、修正のタイミングは難しい判断になるとした。

物価研究の専門家として知られ、日銀の物価に関する勉強会で昨年パネリストを務めた渡辺氏は「日本国内の事情で賃金や物価が動き始めている」とした。国内の物価見通しについて、日銀が予測するような「減速にはならない」と語った。米景気の減速で日本の企業収益が悪化しても「それとは違う(国内の)力学で賃金や物価は決まっている」と説明した。

渡辺教授は、長らく日本に定着してきた「物価は上がらない」という社会通念が「良い方向に崩れつつある」と指摘した。企業は値上げに自信を深め、最新の価格戦略を学ぶ動きもある一方で、これまで価格は変わらないと強く信じてきた日本の消費者のインフレ予想も上昇していると語った。

植田総裁率いる日銀は、足元の物価高の主因は需要の強さではなく「海外に由来するコストプッシュ要因」(19日の植田氏講演)とみている。生鮮食品を除く消費者物価の先行きについては、輸入物価の上昇に伴う値上げの影響が減衰することで「今年度半ばにかけて2%を下回る水準までプラス幅を縮小していく」としている。

インタビューは30日に実施しました。

(和田崇彦、木原麗花 編集:久保信博)