トランプ大統領が先週末、自身のSNS「トゥルース・ソーシャル」に改めて関税を財源とした所得税の減税案を投稿した。年収20万ドル未満が対象になる。同氏はこれまでも「関税収入が所得税収に代わり得る」と主張してきた。経済学者の多くはその実現可能性に疑問の声を上げていると、Bloombergは伝えている。経済学者の多くが疑問視していることは事実だが、同通信社は経済学者の声を借りて自分の本音を伝えていると見た方がいいだろう。メディアの常套手段である。情報操作の原点がここにある。過去にもおなじようなことが何回も繰り返されてきた。たとえばMMT(Modern Monetary Theory=現代貨幣論)論争。物価が安定している限り国債発行に上限はない。ステファニー・ケルトン ニューヨーク州立大学教授(当時)などが主張していた。ベーシック・インカム、現金給付などヘリコプターマネーの必要性も議論の俎上にのぼっていた。
必要だという声があるにも関わらず、いずれも実現しなかった。もっともコロナ禍を背景にバイデン政権は国債を増発し、米国民に大量の現金を給付した。日本でもおなじことが行われたが、給付の規模は月とスッポンほどの開きがあった。コロナ禍が終焉すると同時に米経済は消費を中心に急拡大する。財政赤字も拡大したが、米経済は消費拡大を背景に急拡大に転じたのである。その強さは一強と言われたほどだ。その勢いが現在もかろうじて続いている。そういう意味でMMTや現金給付は陽の目を見た。反対にベーシック・インカムは今日に至るまで無視されている。理由は簡単。政策を維持するための恒常的財源が見つからなかったのだ。政府・自民党は減税を主張する政党に必ずといっていいほど、財源の提示を求める。その一方で矢野元財務次官が月刊文春で主張したが、自ら毎年バラマキ予算を組んでいる。財源は社会保障費のステルス値上げや各種手数料の“増税”などだ。
実現性はともかくとして、トランプ大統領の凄いところは「財源」を提示していることだ。1期目以降一貫して関税率の引き上げを主張している。これとセットで所得税減税にも言及している。増税を信念とする立憲民主党の野田代表は先週、消費税を期限付きでゼロ税率にするとの公約を発表した。7月の参院選を前にした場当たり的な政策転換だ。枝野元代表は「減税を主張する議員は党を出ていけ」と嘯いた。これぞ典型的なポピュリズム。嫌味どころではない。空いた口が塞がらない。トランプ関税がこの先どうなるのかわからない。これがいいか悪いかはともかくとして、減税財源を提示している点では論理的な一貫性はある。トランプ氏の発想の先にAGI(Artificial General Intelligence=汎用的なA I)の展望があるとすれば、中国包囲網の意味も理解できる。異質ともいうべきトランプ氏の主張、現状がどうなるかも重要だが、同時に未来社会を想像しないと理解できない面がある。