• 為替介入とみられる直後の訪日、投資家は緊張の兆候表れか注視
  • ベッセント財務長官、高市首相と12日午後4時に会談へ
片山さつき財務相とベッセント米財務長官(2025年)
片山さつき財務相とベッセント米財務長官(2025年)Photographer: Kazuki Kozaki/Pool/Kyodo News/Bloomberg

藤岡徹Daniel Flatley

ベッセント米財務長官は、スイス・ダボスを訪問した1月、日本国債の急落が米国債市場に波及する局面で片山さつき財務相に厳しい言葉を浴びせた。

  世界経済フォーラム年次総会に合わせて行われた日米財務相会談で、ベッセント氏の語り口は、日本の当局者から見ると、通常の意見交換というよりも叱責(しっせき)に近いものだった。事情に詳しい複数の関係者が非公開情報だとして匿名を条件に語った。関係者の1人によれば、ベッセント氏は矢継ぎ早に論点を提示し、同席した日本側の事務方が内容を書きとめるのもままならないほどだったという。同関係者らは、ベッセント氏が具体的に何を求めたかについては明らかにしなかった。

  ベッセント氏は公の場でも片山氏に圧力をかけた。米FOXビジネスとのインタビューでは、日本側と協議したことを明らかにした上で、市場を落ち着かせるために発信すると「確信」していると述べた。その後間もなく片山氏は市場に冷静な対応を促し、「責任のある、持続可能な」財政政策を推進していることを強調した。このメッセージは、日本の財政支出計画を巡る投資家の不安をある程度和らげたようだ。

  このエピソードは、かつてヘッジファンドマネジャーとして対日投資で成果を上げたベッセント氏が、米国にとって最重要なアジア同盟国である日本の経済の進路形成に、異例とも言えるほど積極的な姿勢で臨んでいることを物語っている。米国が借り入れを増やし続ける中、すでに高水準にある米国債利回りを間接的に押し上げかねない日本の動きは、トランプ政権にとって歓迎しがたいものとなる可能性が高い。

  ベッセント氏は、トランプ米大統領と中国の習近平国家主席による首脳会談が行われる中国へ向かう途中、日本に立ち寄る。これは、日中間の緊張が続く中で、米国が対中関係のみに注力しているわけではないという安心感を日本側に与える側面もある。もっとも、高市早苗首相にとっては、国内政策の主導権を維持しつつ米国からの支持を取り付ける必要があるという点で、ベッセント氏の日本に対する関心はもろ刃の剣だ。

  ベッセント氏は11日から日本を訪問する予定で、財務長官就任から1年余りで3度目の訪日となる。今回は日本の通貨当局による大規模な円買い介入が複数日実施されたとみられる直後の訪日となり、投資家は何かしら緊張の兆候が表れるのかを注視している。同氏はかねてより為替介入に批判的で、利上げを支持している。

  ベッセント氏は、12日午後4時に高市首相と会談する予定だ。

オールニッポン・アセットマネジメントの森田長太郎執行役員・チーフストラテジストは、ベッセント氏が「何か強く要求をしてきた場合、日本が押し返すのは難しいのではないか」と指摘。「ベッセント氏の日本に関する発言が非常に重要であることは間違いない」と述べた。

  米財務省にベッセント氏の訪日に関してコメントを求めたが、返答はなかった。日本の財務省からもコメントは得られていない。

Japan's Prime Minister Sanae Takaichi at Liberal Democratic Party's Annual Convention
高市早苗首相Photographer: Kiyoshi Ota/Bloomberg

  ベッセント氏の訪日は、日本の資金フローが米国市場に及ぼし得るリスクと、中国と対立する中で日本が米国にとって重要なパートナーであることの双方を浮き彫りにしている。同氏によると、1990年以降の訪日は今回で54回目で、これは長年にわたる日本への関心の深さを表すものだ。

  ベッセント氏のX(旧ツイッター)への投稿によると、12日に高市氏と片山氏と会談した後、13日にソウルへ向かい、中国の何立峰副首相と会談を行う予定。中国商務省は、米中首脳会談に先立ちソウルで行われる協議では、貿易問題に焦点を当てることを確認した。

  日本での協議では、サプライチェーンの強靱(きょうじん)化やイラン戦争、為替市場などを議論するとみられる。

  ハドソン研究所で日本部長を務めるケネス・ワインスタイン氏は、ベッセント氏の日本に関する知見は財務長官としては「前例がない」と指摘する。トランプ氏は、第1次政権時にワインスタイン氏を次期駐日大使に指名した。

  ワインスタイン氏は、「日本に関する問題を扱う際は通常、日本の財務相の方が米財務長官よりも情報面で優位に立つが、ベッセント氏が議論の場にいると優位性は大きく崩れる」との見方を示した。

一定の猶予

  スイスでの緊迫した日米財務相会談から数日後、ベッセント氏は異例の対応としてレートチェックを承認し、下落する円の下支えに協力した。通貨当局が参考となる為替レートの提示を為替ディーラーに求めるレートチェックは、介入の可能性を示唆する警告として機能する。

  この対応は、投機筋をけん制し、実際の介入を回避することで、日本に一定の猶予を与える効果をもたらした。

  元日銀為替課長で、10-11年の為替介入時に実務を担当した竹内淳氏は、米国の対応に驚きを隠さなかった。

  現在、リコー経済社会研究所で所長を務める竹内氏は、「おそらくマーケットにいる誰も米国による円のレートチェックなんて聞いたことがないと思う。非常に大きな効果を発揮した」と指摘。「私のときは選択肢としても考えなかった」と語った。

  ベッセント氏が日本を支えた側面もあるかもしれないが、日本が経済をどうのように運営するべきかという個人的な見解には、日銀が金融政策の正常化を進める中で円相場が適切な水準に落ち着くのを容認すべきだとの考えが含まれているようだ。 

  ベッセント氏は昨年8月、日本はインフレ問題を抱えており、日銀は利上げが後手に回る「ビハインド・ザ・カーブ」に陥っている可能性があると指摘した。昨年10月に訪日した際は、日銀にインフレ抑制に取り組むための裁量の余地を与えるよう政府に呼び掛けた

  米国が日本の経済政策に対してこのような強い姿勢を取ったのは、1990年代に日本の対米貿易黒字の是正を目的に経済的な譲歩を引き出したクリントン政権以来となる。それ以前では、大幅な円高をもたらした1980年代半ばのプラザ合意がある。一部のアナリストは、これが日本のバブル経済を助長する一因となり、結果として長期にわたる低成長の引き金となったバブル崩壊を招いたとみている。

関連記事:政府·日銀の為替介入規模、最大で10兆円超-4月30日以降の推計

  ベッセント氏の今週の訪日は、6月中旬の日銀金融政策決定会合での利上げ観測が高まる中で行われる。日本国債はダボスでの会談以降も下落が続き、10年物利回りは4月に1997年以来の高水準に達した。ベッセント氏は米10年物国債利回りを最も重要な市場の指標と位置づけており、日本発で同利回りが上昇すれば、トランプ政権の政策運営を難しくする可能性がある。

  こうした事情が、1月の日米会談で交わされた激しいやり取りの背景にある。高市首相が積極的な財政政策を志向し、消費税減税を検討していることから、投資家の間では、より拡張的な財政政策がもたらし得る長期的な影響を政府は過小評価しており、インフレへの対応に消極的ではないかという懸念がくすぶり続けている。

  片山氏は、日米会談後にダボスで行われたブルームバーグとのインタビューで、日本は依然として世界の投資家にとって「買い」の対象であると力説。経済成長に伴う税収の増加と不要な支出の削減により、政府は国債を追加発行することなく、主要な成長産業への投資拡大を推進できると述べた。

  2月の衆院選で与党が歴史的な地滑り的勝利を収めたことも、政策運営を進める上で、より安定した基盤を確保したとの安心感を投資家に与えた。食料品の消費税率を一時的に引き下げるというコストの大きい措置についても進展は遅く、実施されるとしてもその時期はまだ決まっていない。

  それでも、日本の国債利回りはじりじりと上昇を続けており、米国債に打撃を与える可能性は依然として残っている。ダボスでの会談以降、日本政府は為替市場に介入し、円安阻止に推定で最大10兆円超の資金を投じた。こうした介入が続き、その資金の調達手段として米国債の売却が頻繁に行われれば、米国債の利回りが上昇し、ベッセント氏の懸念はさらに強まりかねない。

  同時に、日本国内での金利上昇に伴い、日本から米国債を含む海外資産への資金流入が鈍化する可能性もある。

  国際金融協会(IIF)のティム・アダムス最高経営責任者(CEO)は、日本は経済体制の転換期にあると指摘し、日銀が超緩和的な金融政策から段階的に退出することが「世界の均衡を変える」と述べた。

  さらにアダムズ氏は、米財務次官(国際問題担当)を務めた経験を踏まえ、「日本の資本が国内に回帰する可能性」は米国債を含む世界の市場に影響を及ぼすとし、「米財務省はその移行課程を注視する必要がある」と語った。

ホテルオークラ

  ベッセント氏の日本市場への関心は、バブル経済の末期で、その後の「失われた数十年」の始まりに当たる1990年にさかのぼる。

  ベッセント氏は最近のポッドキャストのインタビューで、90年に初来日した際に約3カ月間滞在した東京のホテルオークラの宿泊料金が1泊500ドルだったと明かした。2011年には同350ドルに下がっており、「それが当時の停滞ぶりを物語っていた」と語った。

Koichi Hamada Advisor To Prime Minister Shinzo Abe interview
浜田宏一氏Photographer: Yuriko Nakao/Bloomberg

   ベッセント氏は、「私は日本をよく知っている。日本の浮き沈みを見てきた」とし、「そして、長期にわたる停滞も目の当たりにした」と語った。

  ベッセント氏は12年に母校の米エール大学で行われた重要な会合で、変化の兆しを感じ取った。上司でありヘッジファンド界の著名投資家ジョージ・ソロス氏に同行し、同大経済学部の浜田宏一教授と面会した。同氏は当時の安倍晋三首相の経済ブレーンの中核メンバーだった。

  浜田氏は、後にアベノミクスとして知られる経済政策の初期の構想を説明した。

  ベッセント氏は22年、経済誌インターナショナル・エコノミーへの寄稿で、「これらの政策が実施されれば、市場が大きく動く可能性があることにますます興奮を覚えた」と、当時を振り返っている。そしてソロス氏に対しては、うまくいくかどうか分からないが、「一生に一度の相場になるだろう」と語ったという。

  日本の変化をより的確に把握するため、ベッセント氏はニューヨークと東京を毎月往復するようになった。正確な収益は公表されていないが、ソロス氏は12年11月から13年初めにかけて、円安を見込んだ取引で約10億ドル稼いだ。

  ベッセント氏は22年までに、日銀が異次元金融緩和策の「最終局面」に入ったとみていた。自身が率いるマクロヘッジファンド、キー・スクエア・キャピタル・マネジメントも円の取引で30%のリターンを上げた。インターナショナル・エコノミー誌への寄稿では、長年にわたり「世界の金利のアンカー役を担ってきた」日本の金融政策の大転換が、世界の金融市場を揺るがす可能性があると指摘した。

  その後、日銀は現代史上で最大規模の金融緩和策を終了した。23年4月に日銀総裁に就任した植田和男氏の下でマイナス金利は解除され、政策金利は0.75%まで引き上げられたが、それでもなお他の主要国と比べて低い水準にとどまっている。

  日銀の政策に関するベッセント氏の発言を踏まえれば、訪日中に植田総裁との会談も行われる見通しだったが、ソウルへの訪問が決まったことで、日銀総裁との面会の可能性は低くなった。ベッセント氏によると、植田氏とは10年以上の付き合いがある。

U.S. Treasury Secretary Scott Bessent Visits World Expo In Osaka
ベッセント米財務長官(大阪万博、2025年7月)Photographer: Tomohiro Ohsumi/Getty Images

  グローバルマクロ戦略で運用するホークスブリッジ・キャピタル創業者の高橋精一郎氏は、ベッセント氏について、「日銀の利上げはゆっくり過ぎるという感想はずっと持っていると思う」と語った。ベッセント氏はインターナショナル・エコノミー誌への寄稿で、高橋氏を日本の友人の一人であり、安倍元首相の友人でもあると紹介している。

  ベッセント氏は昨年7月、東京の米国大使館で開かれた会合で高橋氏と面会した。高橋氏によると、利上げが「順当に行われれば、そんなに大きく円安にはいかないという話をした」という。高橋氏のオフィスには、ベッセント氏のオフィスを模したガラス張りの部屋がある。

  日本は、エネルギー価格の高騰や中国との緊張関係などから重要な局面にある。今回のベッセント氏の訪日で、日本当局は慎重に対応する可能性が高い。

  オールニッポン・アセットの森田氏は、ベッセント氏について、「日本をよく理解しているが、それが友好的な姿勢を取ることを意味するわけではない」と語った。

原題:Bessent’s Unprecedented Grasp on Japanese Policy Tests Takaichi(抜粋)

*BESSENT TO MEET JAPAN’S TAKAICHI AT 4 PM LOCAL TIME TUESDAY(抜粋)