旧敵国条項の削除を求めた高市早苗首相の一般討論演説、米中首脳会談でのトランプ大統領の「米中同盟」発言など、先週は話題性に富んだ国連ウイークだった。だが、その裏で9月22日、ニューヨークの国連本部において、米国、デンマーク、グリーンランドの3者がグリーンランドをめぐる合意書に署名し、その内容が明らかになった。

この事実について、日本の主要メディアはほとんど報道していない。署名したという事実以上に重要なのは、その内容だ。旧敵国条項や「米中同盟」発言といった話題性をはるかに上回る重要な内容が盛り込まれている。今回の合意は、今後の地球規模の安全保障を大きく左右することになるのではないか。

今回の合意の最も重要なポイントは、①米国がグリーンランドの領土・主権そのものを取得することを断念する一方、②その見返りとして、グリーンランドを軸とした北極圏と北半球における安全保障上の権利を恒久的に確保したことにある。

ただし、協定本文には、デンマークとグリーンランド側が必要な国内議会手続きを終えたことを米国に外交文書で通知した日に発効すると明記されている。したがって、今回の合意が正式に発効するまでには、もう少し時間が必要になる。

手続き論はさておき、重要なのは合意書の中身だ。この合意の正式名称は「1951年のグリーンランド防衛協定を改正・補完する協定」。米国とデンマークの間で締結された安全保障協定を改訂するものという位置付けだ。

つまり、米国によるグリーンランドの軍事利用と防衛体制を、長期的に再構築するための安全保障協定というわけだ。

具体的には、

①米軍宇宙軍基地の拡張・近代化

②南部と東部に新たな「防衛区域」を設置することが可能

③将来的に、さらに防衛区域を増設することが可能

④米軍機によるグリーンランド領域内での飛行・着陸を広範に認める

⑤軍艦艇の領海内・海中へのアクセスを認める

⑥トランプ政権が推進する「ゴールデン・ドーム」ミサイル防衛システムへの軍事アクセスを認める

⑦NATO域外国がグリーンランドに恒常的な軍事プレゼンスを持つことを原則として禁止する

特に重要なのは⑦だ。この条項によって、ロシアや中国などNATO域外の国々によるグリーンランドへの軍事的アクセスや恒常的な軍事プレゼンスが制限される。これによって米国とNATOは、グリーンランドを北極圏の重要な防衛拠点として確保できる。

そして、この協定には終了期限がない。米国は長期にわたって、この島を軍事・安全保障上の拠点として利用できることになる。さらに、グリーンランドが将来独立した場合についても規定が盛り込まれている。

具体的には、

①独立したグリーンランドはNATOに残る

②必要であればNATOへの加盟を申請する

③現在デンマークが持っている協定上の権利・義務を、グリーンランドが引き継ぐ

要するに、デンマーク領グリーンランドであっても、独立したグリーンランドであっても、米国はこの島における安全保障上の権利を恒久的に維持できる仕組みになっている。

ここまで来れば、誰でもトランプ氏が主張する「ドンロー主義」を連想するだろう。「ゴールデン・ドーム」は、その象徴ともいえる。

では、デンマークとグリーンランドは、この合意によって何を得たのか。領土と主権を維持したのである。

その一方で米国は、北米大陸に限定されていた防衛線を北極圏まで恒久的に押し上げる。ドンロー主義が完成すれば、その範囲はさらに西半球全体へと拡大することになる。

そのとき、日米の軍事同盟はどうなるのか。

そして、なぜ日本の主要メディアは、これほど重要なニュースをほとんど報道しないのだろうか……。