道路予算の減額発言をめぐり、農林水産大臣としての資質が問われた簗騒動。本人の辞表提出で第一ラウンドは幕を閉じたが、この間の議論の推移を眺めながら感じたのは、正直言って「どっちらけ」だった。“興ざめ”と言った方がいいかもしれない。
簗氏を擁護するつもりはない。高市首相がいみじくも答弁したように、簗氏の発言そのものが「ダサい」の一言に尽きるだろう。ただ、この騒動の背景を考えると、政治家やメディア、コメンテーターなどが展開した、いかにも白熱しているかのような議論に、この国の薄っぺらい現状が透けて見える気がしたのだ。
簗騒動の論点を整理すると、次のようになる。
① 栃木県第3区は保守分裂による激しい選挙戦が繰り広げられていた選挙区である。
② 自民党公認の簗氏は、その選挙戦で自分を必要以上に大きく見せようとしたのではないか。
③ 限られた支持者との会合で道路予算の減額に関する発言をした。
④ この発言が何者かによって録音され、週刊文春と週刊新潮に伝わった。
⑤ 大臣就任後に発言が大々的に報道され、騒動に発展した。
⑥ 背景には道路予算の編成・配分をめぐる不透明性がある。
⑦ 国土交通省は予算減額の理由を十分に説明していない。
⑧ 簗騒動に国会審議が振り回され、本質的な政策論議が停滞している。
ほかにも論点はあるだろうが、今回の騒動で集中的に取り上げられたのは②と③だ。④以下の論点はほとんど争点にすらならなかった。そこで、ここでは④と⑤に焦点を当ててみたい。
限られた支持者との会合での簗氏の発言を、何者かが録音していた。単純化すれば「隠し録音」である。悪意があったのかどうかは不明だ。誰が録音したのかも分からない。録音されたのは5月24日とされる。
この会合には約30人の支持者が集まっていたという。重要なのは、不特定多数が集まる街頭演説や公開討論会ではなかったという点だ。しかも簗氏が大臣に就任する数カ月前の出来事である。その発言内容が大臣就任後、週刊文春と週刊新潮によって報じられた。
もちろん、発言全体が記事になったわけではないだろう。ただ、両誌の記事を直接確認していないため、どの部分が、どのような文脈で報じられたのかは断定できない。仮に「予算を減額した」という部分だけを強調した記事だったとすれば、発言全体の趣旨を正確に伝えていたのかという問題が残る。
両誌が報じたのは9月30日とされる。これに野党が飛び付いた。簗大臣の不適切発言はあっという間に全国に広がり、騒動が拡大していった。
想像をたくましくすれば、「誰かが意図的に簗氏の失言を狙っていたのではないか」という推測も浮かんでくる。だが、それを立証する証拠は何もない。推測だけで判断するのは危険だ。
ただ、一つ気になる事実がある。発言が録音されたとされるのは5月24日。それが記事になったのは9月30日だ。この間の4カ月余りの空白をどう考えればいいのだろうか。
週刊誌は読者の関心を集め、販売部数を伸ばすことを重視するメディアである。大臣就任前の一議員の不適切発言より、大臣就任後の問題発言として報じた方が、世間の関心を集めやすいのは確かだろう。
記事化のタイミングに大臣就任が関係していた可能性はある。結果として野党がこの問題を取り上げ、政権を揺さぶる政治問題へと発展した。
ただし、録音データがいつ週刊誌側に渡ったのかは不明だ。録音した人物が自ら持ち込んだのか、別の人物を経由したのかも分からない。録音から報道までの経緯を含め、事実関係を明らかにする必要があるのではないか。
例えば、悪意を持った第三者が簗氏の支持者に金銭を渡し、秘密裏に録音するよう依頼していたとすれば、どうだろうか。録音の方法や目的、関係者の行為によっては、法的な問題が生じる可能性もある。
もちろん、これはあくまで仮定の話だ。現時点でそのような事実を裏付ける証拠があるわけではない。
しかし、保守系候補が分裂して激しい選挙戦を繰り広げていた地域である。政治的な思惑が絡んでいた可能性はないのか。金銭の授受などがなかったのか。そんな疑問さえ浮かんでくる。だからこそ、憶測を排除するためにも事実関係の解明が必要なのだ。
もっとも、国会にそこまで期待するのは所詮無理なのかもしれない。そんなことは分かっているつもりだ。それでも、簗氏の辞任や更迭ばかりが焦点となり、問題の背景に踏み込もうとしない国会論議には“興ざめ”してしまう。
そして、⑥以下の論点はさらに重要だ。道路予算の配分はどのような基準で決まり、なぜ減額されたのか。国交省はその理由をどこまで説明しているのか。問われるべきは、行政の予算配分の透明性と説明責任である。
簗氏個人の責任を追及するだけでは、この問題は解決しない。だが、現状の国会にそこまで踏み込んだ議論を期待するのは難しいのだろう。