ウクライナの停戦交渉を主導するウィトコフ米大統領特使は22日、プーチン大統領と会談した。会談後、テレビインタビューに応じたプーチンは「米国の仲介によるウクライナとの協議を11月に再開する用意がある」と表明した。ロイター通信が伝えている。

ロイターによると、プーチンは「ロシアは戦争を始めることを望んでいなかったが、自国が懸念する主要な問題についてウクライナから敵対的な反応を受けた」とする従来の立場を改めて示したという。

その上でプーチン氏は「協議の目標は、短期間の一時的な停戦によってではなく、最終的な和平合意に達した後のウクライナとロシアの安全を確保することだ。この目標を達成するため、協議を再開する用意がある」と語った。以上はロイターの報道によるものだ。

短い引用だが、この中にプーチンの“陰謀”の全てが隠されている気がするのだ。仲介役のウィトコフ特使は、恐らくトランプ氏に忠実な人物なのだろう。問題の本質を理解しないまま停戦交渉に突き進む。それしか眼中にないように見える。プーチン氏と激論を交わしたとされるトランプ氏の娘婿、クシュナー氏が同席していなかったことも、今回の会談を象徴している。

プーチンが強調する「最終的合意」とは、要するに「俺の言うことに従え」と言うとだろう。強権的独裁者が言いそうなことだ。

このロイターの記事を読んだ印象は、「停戦協議は成立しない」というものだ。なぜなら、プーチン氏はこれまでの主張を何一つ変えていないからだ。停戦協議が成立するとすれば、それはトランプ氏がウクライナを徹底的に追い詰め、ゼレンスキー氏が戦意を喪失し、ウクライナが完全に敗北する時だろう。

そうなれば、指導的立場を失うのはトランプ政権だけではない。米国そのものが自由主義陣営の指導的立場を失うだろう。ただ、米議会もそこまで落ちぶれているわけではない。中間選挙を経て、米議会が反トランプで結集する可能性もある。

心配なのは、メディアの選挙予測が必ずしも当てにならないことだ。共和党が善戦し、議会の主導権を維持することもあり得るだろう。むしろ、その可能性の方が気になる。

ところで、プーチンが言う「ウクライナの敵対的な反応」とは何を意味するのか。ウクライナへの軍事侵攻を開始した時の演説を思い出せば、その意味が見えてくる。

2022年2月24日、プーチンは国民向けのテレビ演説で、概要次のように主張した。①ドンバス地方の住民がウクライナ政府による虐待や「ジェノサイド(集団殺害)」にさらされている②ウクライナの「非軍事化」が必要だ③ウクライナの「非ナチ化」が必要だ④ロシア自身と国民を守るための自衛的措置である――というものだ。

もちろん、ジェノサイドもナチ化もプーチンの独りよがりなナラティブ(物語)にすぎない。ウクライナ政府がジェノサイドを行っているというロシアの主張には、国際的に認められた確かな根拠がない。むしろ、プーチンの行動こそナチスを想起させるものだという批判もある。

プーチンは侵攻以前にも、同じような主張を展開している。2021年7月12日、ロシア大統領府の公式サイトに発表した論文だ。

その概要は、①ロシア人とウクライナ人は歴史的・文化的に一体である②ウクライナの真の主権はロシアとの協力関係の中でのみ実現できる③ウクライナがロシアとは別の政治的・軍事的進路を選択することを、ロシアの歴史的利益に反する行動とみなす――というものだ。

なんのことはない。ウクライナの国民も領土も、事実上ロシアの一部だと主張しているのだ。言うことを聞かないから軍事力を使って正す、という理屈である。ウクライナは自国の安全保障を確保するため、欧州連合(EU)と北大西洋条約機構(NATO)への加盟を希望しているが、プーチンはこうした動きも「敵対的」だと解釈している。

ウィトコフ特使はプーチンに対し、「あなたは人道主義者だ」と称賛の言葉を送っている。米国人の解放に関連した発言だが、ウクライナ侵攻に伴う戦争犯罪の疑いで国際刑事裁判所(ICC)がプーチンに逮捕状を発付している事態をどう説明するのだろうか。

11月に再開が見込まれるウクライナ、ロシア、米国の協議でも、ロシア側はプーチンの意向に沿った主張を繰り返すのだろう。場合によっては、米国、中国、ロシアの3カ国による首脳会談が、ロシアの主張する条件での停戦を後押しすることになるのかもしれない。

中間選挙を経て、米国の国内情勢がどう変化するかは分からない。共和党が上下両院で敗北した時、トランプ氏は不正選挙だと言い出すのではないか。レームダックに陥ったトランプ氏が何をするかも分からない。

停戦協議も3カ国首脳会談も、頭の中を駆け巡るのは嫌な予感ばかりだ。