[高市政権1年]<3>

 「The weak Yen is killing us(円安で我々は痛めつけられている)」

 9月22日、国連本部で行われた日米首脳会談で、大統領ドナルド・トランプは首相の高市早苗(65)にこう迫った。

高市政権下の対ドル円相場の推移

 「責任ある積極財政」を推し進める高市が首相に就任した昨年10月以降、対ドルの円相場は、39年8か月ぶりの円安水準に達し、日本の長期金利は30年ぶりに3%を超えた。円安ドル高と長期金利上昇が続けば、米国経済にも打撃となる。

 高市も「円の過小評価は問題だ」とトランプに同調したが、日本政府内には、トランプから面と向かって懸念を突きつけられたことに波紋が広がった。

 約2週間後の10月5日、高市が行った所信表明演説は、市場を強く意識した内容となった。

 「財政の持続可能性は、当然の前提です」「高市内閣は正攻法で、市場の政府に対する信頼を高めてまいります」

 高市は、指折りの積極財政派で知られる成長戦略相の城内実(61)からも知恵を借り、演説を練り上げた。城内からはA4判10ページほどの経済財政政策を説明する文書が手渡されていた。

 首相就任前の高市は、2024年の自民党総裁選で「金利をいま上げるのはアホだと思う」と言い放ち、日本銀行の利上げを強くけん制した過去がある。

 だが、首相就任以降は、日銀が政策金利を3回にわたって引き上げることも容認してきた。デフレ脱却のために「異次元の金融緩和」を進めた安倍政権と異なり、高市政権下では物価高というインフレ局面に着実に対処し、利上げを進めている。自身が政策金利の引き下げなどの金融緩和と積極的な財政出動を志向する「リフレ派」だと見られていることに、高市はいら立ちを隠さない。

 「私が『リフレ論者じゃない』と、もっと発信してほしい」。高市は財務相の片山さつき(67)に繰り返し、こう言い聞かせている。

 「首相は非常にオーソドックス(正統派)な考えの持ち主だ。金利については日銀に任せ、独立性を尊重している」

 8月31日、米国で財務長官スコット・ベッセントと向き合った片山はこう説明し、「首相はリフレ論者ではない」と語気を強めた。ベッセントは「Good(いいことだ)」と返したものの、翌日開いた記者会見では日本を名指しし、「リフレ政策をやめるべきだ」と重ねて注文をつけた。

 知日派のベッセントは高市政権発足直後から、日銀の利上げが止まり、円安がさらに進むことへの警戒感を示してきた。

 片山はこの間、電話を含めて7度に及ぶ会談で、ベッセントの不信感を 払拭ふっしょく するよう努めてきた。7月末には円安阻止を狙い、円買いとして28年ぶりとなる日米協調介入に踏み切った。

 それにもかかわらず、米国からリフレ批判がやまないのは、高市政権の積極財政路線そのものを危ぶんでいるからだとの見方が強い。高市政権の一挙手一投足に市場は反応し、トランプ政権は神経をとがらせている。苦慮する高市の胸中を、政府高官は「『どれだけ言えば分かってくれるのか』というのが本音だろう」と推し量る。

 さらなる円安や長期金利上昇の危険をはらみながらも、高市は「悲願」とする消費税減税や、大胆な国内投資にまい進しようとしている。看板政策は成功するのか。試金石となる初の本格予算編成は12月に迫っている。(敬称略)