ウクライナのゼレンスキー大統領は25日、米国の軍事用衛星通信システム「スターシールド」の利用制限について、「最近生じていた問題が解消し、完全に再開された」(ロイター通信)と述べた。
発端は9日に行われた米ロ首脳会談だった。この会談を機に、トランプ大統領のウクライナおよびゼレンスキー大統領に対する態度が豹変した。
翌10日、トランプ氏は「ウクライナは新しい大統領を選ぶ時だ」とテレビを通じて発言した。さらに、衛星通信サービス「スターリンク」の軍事用システム「スターシールド」に利用制限がかかり、ロシアの攻撃に対する早期警戒機能にも支障が生じた。
これにより、戦時下のウクライナでは軍事活動に大きな混乱が生じ、自由主義陣営のリーダーである米国に対する不信感も増幅した。
AP通信は24日、スターシールドの利用制限をめぐる米政権内部の混乱ぶりを詳しく報じた。同通信社によると、衛星通信システムの利用制限をめぐり、トランプ政権の高官や関係者の間で、責任のなすりつけ合いともいえる状況が生じているという。
具体的に何が起きていたのか。経緯を振り返ってみよう。
ウクライナ側がスターシールドの利用制限を公表したのは14日。その直後、トランプ氏は「サービスはすでに全面的に復旧し、通常の速度で稼働している」と主張した。しかし、23日になってもゼレンスキー氏は「依然として制限が続いている」と述べていた。
AP通信によると、今回の問題と、その後も責任の所在が明らかになっていない状況は、米議会の対ロシア強硬派やウクライナ支援派に大きな衝撃を与えている。
こうした中、民主党のリチャード・ブルーメンソール上院議員は22日、ウクライナの防衛システムに利用される衛星通信技術が、どのような経緯で制限を受けたのかについて、新たな調査を開始すると発表した。
これに先立つ15日、ロイター通信は「ウクライナ向けスターシールドの利用制限の指示がホワイトハウス内部から出ている」とスクープした。
一方、16日にはトランプ氏が、自身と政権には責任がないとの認識を示している。
ロイター通信の報道が事実だとすれば、これほど重要な指示を、大統領の関与なしに出せる人物がホワイトハウス内部にいるのだろうか。そんな疑問を抱かざるを得ない。疑惑の目は、おのずと大統領本人にも向かう。
一体、誰がスターシールドの利用制限を命じたのか。疑問が疑問を呼ぶ展開となっている。
こうした中、22日には米紙ウォール・ストリート・ジャーナルが、イーロン・マスク氏が利用制限の解除に同意したと報じた。
翌23日、トランプ大統領は「サービスに依然として問題が残っているとは聞いていない」と述べた。さらに、誰がスターシールドの利用制限を命じたのかとの質問には回答を拒否し、記者にこう語った。
「仮に知っていたとしても、あなたには教えない」
まさか「それは私だ」とは言えないだろう。そんな疑念さえ浮かんでくる。
では、政権内部の反応はどうだったのか。
バンス副大統領は22日、記者の質問に対して次のように答えている。
「米国政府が事実上、彼(マスク氏)に何をすべきか指示することもないまま、二つの国家の間で行われている戦争に巻き込まれたくないと考えるのは、十分理解できることだ」
この発言は、マスク氏が独自の判断で利用制限を行った可能性を示唆しているようにも聞こえる。
ルビオ国務長官は、トランプ政権も米国政府全体も一切関与していないと主張している。
「私が確実に言えるのは、米国大統領も、われわれの政府組織の誰も、このシステムに何らかの変更を加えるよう要請したことは一度もないということだ。われわれはその点を繰り返し説明してきた」
要するに、政権内部では「マスク氏が独自に判断した」という説明で足並みをそろえているのかもしれない。
だとすれば、ロイター通信がスクープした「利用制限の指示はホワイトハウスから出ている」との情報と真っ向から矛盾する。どちらの説明が正しいのか、明確にする必要がある。
さて、肝心のマスク氏はどう説明しているのだろうか。
「スターシールドのシステムは米国政府が所有し、管理している。通信速度や利用に関する制限は米軍が決定し、最終的には米国大統領(POTUS)が決定する」
さらに、こう付け加えた。
「スターリンクはスペースXが所有・管理する商用サービスだ」
つまり、スターリンクとスターシールドは別物であり、軍事用システムの運用については米国政府に責任があるという説明だ。
最後に、ヘグセス国防長官の発言を紹介しよう。
同氏は20日、責任はマスク氏の企業にあるとの認識を示し、次のように述べている。
「最終的には、守らなければならないサービス利用規約がある」
「スターリンクには、そうした判断を下す選択肢がある」
はっきり言って、何を説明しようとしているのか分からない。肝心のスターシールドの利用制限について、誰が、どのような権限に基づいて決定したのかという疑問には答えていないからだ。
困ったときに政治家がよく使う、論点をすり替える手法のようにも聞こえる。
トランプ大統領は、ウクライナ戦争をめぐって一体何を目指しているのか。政権幹部の説明は食い違い、責任の所在も明らかにならない。
今回のスターシールド問題は、ウクライナ戦争への対応で迷走するトランプ大統領と、その政権の実態を象徴しているように思える。