北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長が、日朝首脳会談に意欲を見せていることが29日、分かった。韓国の文在寅大統領が安倍晋三首相と電話会談し、正恩氏が「日本と対話する用意がある」と27日の南北首脳会談で述べたと伝えた。一気に国交正常化を目指すメッセージとの見方もある。実現するのは米朝首脳会談後の6月以降とみられ、これまで蚊帳の外だった安倍政権としては、渡りに船にしたいところだ。

分断された南北のリーダーが軍事境界線を越えて握手し、世界の注目を集めた南北首脳会談。その中で金氏は日本に対し「いつでも対話する用意がある」と述べていた。文氏から説明を受けた安倍首相は「日本としても北朝鮮と対話する機会はつくりたい」と応じたという。

ここに来て、北朝鮮が方針を転換した背景には、韓国や米国と並行して交渉する多面外交で、半島情勢を一気に転換する狙いがあるとみられる。

金氏は史上初の米朝首脳会談を通じ、確実な体制保証を得て米朝国交正常化を実現したい考え。米韓と連携して圧力路線を進めてきた日本を対話に引き込み、より有利な立場で米朝交渉を進め、制裁緩和などの広範な成果を得る思惑があるとみられる。

北朝鮮報道を続けるアジアプレス大阪事務所の石丸次郎代表は「今回の発言は“一気に日本と国交正常化まで進む意思がある”という金氏のメッセージ」と指摘する。日朝間の最大の懸念は拉致問題。だが北朝鮮にとって、安保や国家体制に関わる核問題などより優先順位はずっと低く、交渉のハードルは高くないという。

ただ日本との公式対話が再開した場合、北朝鮮は制裁緩和や植民地支配を巡る「過去の清算」を優先的に求める公算が大きい。金氏の発言自体が文氏の伝達によるもので「日朝間の橋渡し役を買って出ることで政権支持率を高めたい文氏の思惑が秘められている可能性もある」(官邸筋)との見方もある。

いずれにしても森友・加計学園問題などで求心力が低下する一方の安倍首相にとっては、絶好の事態。得意とされる外交でアピールしたいところだ。自民党の二階俊博幹事長はこの日、9月の総裁選を巡り「3選支持は1ミリも変わっていない。これだけ外交実績を上げている」と、早速援護射撃をした。