ゴーン容疑者の疑惑や逮捕にいたる経緯が少しずつ明らかになってきた。役員報酬を過少申告した上、不正な支出や投資があったことがより具体的に明らかになってきた。日経新聞によると5年間で50億円に上った過少申告の大半は、「ストック・アプリシエーション・ライト」(SAR)と呼ばれる株価連動型インセンティブ受領権だという。ゴーン容疑者は役員報酬として受け取ったSARを有価証券報告書に記載していなかったようだ。また、不正投資や不正支出としては自宅を会社の資金で購入させていたほか、一部には前妻との離婚にともなう慰謝料や、ベルサイユ宮殿で行った後妻との結婚式の費用も会社が支払ったのではないかとの疑念が囁かれているという。ここまでくるとカリスか経営者どころか、カネの亡者であり経営者としての資質すら疑われる事態である。日産に君臨した“異形経営者”のあまりにもお粗末な転落である。

だが、一方で日産本体はかなり早い段階からゴーン容疑者の不正に気づいていたという事実も明らかになってきた。朝日新聞によると「(事件の端緒は)今年3月ごろにさかのぼる。日産社内で、会長をめぐる不正な資金工作が告発された。情報は検察当局にも寄せられた。捜査に協力する見返りに刑事処分を減免する『司法取引』制度が6月に始まる時期だった。関係者は当時、『やばい案件がある。事件になればトップの辞任につながるが、可能性は5~10%くらい』と周囲に語った」とある。司法取引で協力したのは、「法務やコンプライアンスを担当する専務執行役員を含む複数の幹部らだった。検察OBの弁護士の助言を受けながら、東京地検特捜部による事情聴取を受けた」という。日産の経営幹部は早い段階から事件の概要を掴んでいたということになる。

まだある、産経新聞には「関係者によると、監視委が数年前に行った証券会社への証券検査で、日産の資金を私的に使った投資など、ゴーン容疑者の指示とみられる複数の不正行為の疑いが浮上した。このため、監視委は日産側に複数回にわたり、ゴーン容疑者に不正行為をやめさせるよう注意。これらを受け日産側は、ゴーン容疑者に再三是正を促したが、拒否されたという」とある。日産側はかなり早い段階からゴーン容疑者の不正に気がついていた。その不正が今回、司法取引をへて公になったわけだが、なぜ逮捕がこの時期なのかという疑問は一向に解消されない。結局この事件は、ゴーン容疑者の嫌疑の中身ではなく、ゴーン容疑者の排除が目的ということになる。排除せざるをえない何らかの理由が水面下で動き始めたということだろう。事件の源泉はマクロン仏大統領の“胸の内”にあるような気がする。