ゴーン前会長 逮捕

日産自動車のカルロス・ゴーン前会長が逮捕された事件で、ゴーン前会長の実際の報酬額が記されたとみられる一部の文書に、前会長が手書きで内容を修正した痕跡が残されていたことが関係者への取材で分かりました。東京地検特捜部は10日、前会長らと法人としての日産を起訴するとともに、直近3年間の報酬も少なく記載していた疑いで前会長らを再逮捕するものとみられます。

日産自動車の会長だったカルロス・ゴーン容疑者(64)は、平成26年度までの5年間、有価証券報告書にみずからの報酬を少なく記載していたとして、先月19日、代表取締役だったグレッグ・ケリー容疑者(62)とともに金融商品取引法違反の疑いで逮捕されました。

東京地検特捜部は、ゴーン前会長が高額の報酬への批判を避けるため、実際の報酬との差額を退任後に受け取ることにしていたとみて調べていますが、ゴーン前会長の実際の報酬額が記されたとみられる文書が作成され、一部の文書には前会長が手書きで内容を修正した痕跡が残されていたことが関係者への取材で分かりました。

特捜部は勾留期限の10日、ゴーン前会長とケリー前代表取締役、それに法人としての日産を起訴するとともに、昨年度までの直近の3年間の報酬を少なく記載していた疑いで再逮捕するものとみられます。

調べに対しゴーン前会長らは「退任後の報酬は正式には決まっていなかった」などと供述し、容疑を否認しているということです。

海外メディアが捜査を批判 背景に文化の違いも

今回の事件についてアメリカの有力紙、ウォール・ストリート・ジャーナルが「かつて救世主とされた前会長は、空港で逮捕され起訴されることもなく勾留が続いている。このような扱いは、犯罪歴のない国際企業の経営者に対して不適切だ」と先月の社説で批判するなど、海外のメディアからは逮捕そのものへの疑問の声も出ています。

なぜこのような批判が出るのか。
比較刑事法が専門で一橋大学大学院の王雲海教授は、背景には経済事件の捜査について、日本と欧米で根本的な考え方の違いがあると指摘しています。

王教授によりますと、アメリカでは経済事件の捜査の最終的な目的は「市場の秩序の回復」で、罰金や追徴金などによる制裁によって効果が得られれば、逮捕にまで踏み切るケースは少ないということです。
このため「任意捜査を行わず、ジェット機を降りたとたんに逮捕するという今回の日本の捜査手法は、海外では『奇襲』のように感じられアンフェアだと受け止められている」と指摘しています。

一方、王教授は「日本の捜査機関は、市場の秩序の回復より、いわゆる『お上』として正義を守るために不正と闘うという意識が強いのではないか」としたうえで、「特捜部はゴーン前会長が日産で多くの人をリストラしたのに、自分だけが何十億円もの報酬をひそかにポケットに入れていたことを『正義に反する』として逮捕に踏み切ったのではないか」と分析しています。

さらに王教授は、特捜部がゴーン前会長を逮捕したあと、容疑の詳細をほとんど明らかにしないことも、海外メディアからの批判を集める要因になっているとして、「検察は、日本と欧米では捜査に対する考え方に違いがあることを認識し、批判に対しては『説明責任を果たす』という発想で臨むべきだ」と指摘しています。